キースジャレットはMy Songを 1977年に吹き込んだ後クァルテット形式のバンド活動を停止する。 その後に出たのは,この1979年のライブアルバムと同じツアーの日本の ライブ版Personal Mountainだけである。 その後キースは ソロとスタンダーズしかやっていない。しかもスタンダーズは 1983年からである。キースは本で,スタンダーズは, 自分の聴き親しんだ曲を,気の合う仲間とやりたい,様なことを 考えて始めた,と述べている。これはある意味これ以降,バンドで 音楽を拡張していくことを止めたとも言える。その証拠に, キースはスタンダーズでは曲を書いていない。
そういう意味ではキースにとってこのバンドは何だったのか?。 更に1976年に活動を停止したアメリカンクァルテットは何だったのか?, というのは非常に興味深い。
私は,キースはヤン・ガルバレクという天才を得て,やりたい 事を全部やってしまったのではないか?,と思っている。 アメリカンクァルテットではデュゥーイ・レッドマンという テナー吹きがいるにも関わらず,キース自身がソプラノサックスを 吹いている。ガルバレクはそこでキースがやっていたサックスを 数倍のクオリティで再現している様に思える。
というわけで,このアルバムはキースがバンドでの音楽をやり尽くす 瞬間の音楽と言える。アメリカン・クァルテットもすでに解散しており, ヨーロピアン・クァルテット独特のカラーを持つスタジオ版 (Belonging,My Song) に比べ,アメリカン・クァルテットがもつ,ライブバンドや フリージャズ的なカラーもここでは見られる。 しかもビレッジバンガードというライブハウスでの録音,レコーディング エンジニアもスタジオと異なり,そういう意味でかなりサウンドのイメージが スタジオ版と異なる。ガルバレクは意外にもソロの盛り上がった部分では コルトレーンの影響を感じさせるし,キースが書いた 曲もアメリカン・クァルテットで多く見られたような,ダークで フリーな曲もやってる。スタジオ版でやってる曲は入っていない。
一曲目Chant of the Soulなど,これがヨーロピアン・クァルテットか? と思えるほど熱い演奏である。しかし二曲目のInnocenceは美しい。 こんな単純なテーマがこんなに美しくなるのか?と思えるような演奏。 やはりジャズは演奏でつくられる音楽である。その他の曲も, ガルバレクのサックスをうまく使って雰囲気を作り出す音楽を やっている。特にバックに回ったときのガルバレクのサックスは まさに空間を作り出しているという感じである。
完成されたサウンドである。同じ方向性で,このバンドを 越えたバンドはいまだに出てきてない,と思う。
完成されたキースの最後のクァルテットの 貴重なライブ記録