とあるきっかけ改めて聴き直したのであるが,やはり名盤である。このアルバムはキースジャレットのいわゆる“ヨーロピアン・クァルテット(スカンジナビアン・クァルテット)”の代表作の一つである。そもそもヨーロピアン・クァルテットは四枚しかアルバムを出しておらず,そのいずれもが,すばらしいできであるため,どれが代表作か?と問われると難しいのであるが,この作品はキースの作品の中でおそらく一番ポップなアルバムである。
キースジャレットは“独創性”,“攻撃性”,“演奏技術”,“美しさ”等普通の人が持ち得ない複数の要素をもっている稀有な人である。その中でこのアルバムはキースの“美しさ”が最も全面に出たアルバムであり,特に"Quester","My Song","Country"の三曲はニューエイジミュージックとして捕らえ兼ねないほどの美しさである。しかも“演奏技術”,“独創性”においてそれらを軽く凌駕している。
とにかく全てがいい。どちらかというとガルバレク側のミュージシャンにキースが参加したという編成であるが,曲は全てキースが書いている。キースはメンバーに応じて曲をかなりかき分けている感があるが,ここでの曲もガルバレクの牧歌的というかメロディアスなフレーズを吹かせたらサックス界1ともいえる特質を十分に引き出している。その他にも単なるランニングベースを弾かせない,朕美なドラミングなど,いかにもこのメンバーのためにかかれた曲である。
このアルバムを一聴して感じるのはガルバレクの素晴らしさであろうが,キースのプレイも光る。ガルバレクを生かすためかわりと控え目な演奏をしているが,そこで聞こえるピアノの音から感じる自信。単音のピアノがこんなに説得力があり美しいのか?と感じる瞬間である。さらに相変わらず複数の横のラインを形成する複雑な演奏をあたりまえのようにやってみせる。
このアルバムはかなり昔に聴いて,それ以来キースとガルバレクは私にとって神に近いミュージシャンである。このコラボレーションはあくまでプロデューサ(マンフレッド・アイヒャー)のお遊び(というか趣味)的で,このアルバムを出した後の共演は(私が知る限りは)無い。そうこうしている間に,この二人は大スターになってしまい,今後おそらく共演することは無いのではないか?とても残念だ。“同窓会”“お遊び”的なライブでもいいからやって欲しい。スタンダーズの自己コピーを続けるよりよっぽどいいと思うぞ。