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はじめに
CDが世の中に出てきて10年以上が過ぎた。 CDの出現は実は思った以上に,大きな影響を音響の 世界に与えている。音響研究もそうだし,趣味としての オーディオ,そして我々の生活にも大きな影響を 与えている。それは音をディジタル化することにより, スペック化したことであろう。それまでも,音として聴える帯域は20Hz〜20kHzだとか, ダイナミックレンジは100dB程度だとか言われていた。 しかし実際当時売っていた,オーディオのカタログには 10Hz〜50kHzと書いているようなスピーカや,SN比120dBと 書いているようなアンプもラインナップされていた。 カセットテープは品質的にこれらの性能を満足できなかったが, アナログレコードやそれ以外のテープ(オープンリールとか) は工夫次第では,それらの性能を引き出すことを可能としていた。
しかしCDが出現し,テープもDATになってから,オーディオは 16bitで44.1kHzか48kHzサンプリング,帯域的には20kHzという 風に決まってしまった。ユーザがどんなに工夫しても,その壁を 越えることはできない。一方プロダクションの現場でも,この スペック以上で記録する必要がなくなったという事で,周辺の アナログ機器も20kHz以上の帯域を保証しなくなった。
その結果,20kHz以上の音は我々の生活から遠ざかってしまった。 しかしそれから10年あまり経って,SACDやDVD-Audioという 新しい記録媒体が生まれた。そして今,20kHz以上の音と いうものがにわかに注目されるようになった。 果たして,over 20kHzのサウンドは,我々に何を もたらしてくれるのであろうか?。
現場でオーバ20kHzが望まれる理由
SACDやDVD-Audioは市場や現場の要求ではなく,メーカからの 提案で生まれてきた。なぜ生まれてきたのだろう?。ぶっちゃけていうと, ビデオを収容するために光ディスクを開発していたら, 十分余裕が出来たので音もスペックアップすることにした, という側面が強い。逆を言うとCDが出来たとき,16bit,44.1kHz サンプリングにしたのは,12cmの光ディスクに74分の音楽を いれるために,その程度にしたともいえる。というか,そういう 側面もあったらしい。であるからビデオ用光ディスクのために 今の数十倍の容量のものができたときに,じゃぁ 音ももうちょっとスペックをあげてみようか?って 事になったのである。とはいえ,メーカがつくってみただけでは使われない。 SACDやDVD-Audioをつくるにあたっては実際にそれを使う 録音の技術者(主に放送関係)の意見も多く採り入れられた。 そして,実際に録音技術者は,この様なハイスペックの 音響機器の出現についてはわりと喜んでいるようである。
それは何故であろう?。それを使うことにより,現在より いい音が録音出来るのであろうか?。実はそうでは ないらしい。16bitの解像度はもう少しあった方がいい, という話は良く聴く。しかしサンプリング周波数48kHz以上 というのは,それがどれだけ聴える音に影響を与えるかは 不明なのである。ではなぜ望まれるか?,それは後になって, 「もっといい音でとっておけば良かった」って事に ならないように…とのことである。つまり現状効果があるか どうかはわからないが,記録用として,とれるだけの 情報をとっておこうという事なのである。
しかし,この話を聞くと思い出す話がある。 CDが出現する数年前,PCM録音への移行段階として,アナログの レコード(LP)のためにPCMでマスタリングをするのが 流行ったことがある。これは将来CDに焼き直す場合に そのまま使える様に…とのことだったらしい。しかし 実際はCDやそのPCMの機器のクセがあり,結局 マスタリングの直しになったという話を,当時の 技術者から聞いたことがある…。そういう意味では, 将来のために現在良くわかんないままに 録音していて意味があるのかどうかは,誰もわからないのである。
余談であるが解像度16bitを20bitや24bitにするのは かなり効果があるらしい。これは16bitというスペックが, 実は結構低すぎたことを示している。
つづく…