最近読んだ本から…メモなどを。
書籍編
- 脳のなかの幽霊,ふたたび〜見えてきた心のしくみ (V.S.ラマチャンドラン著)(05/10/22)
- ラマチャンドランというと「脳の中の幽霊」 という本を以前読みました。物凄くおもしろくいろいろと勉強に なりました。前著は結構前の本なのに今年になってなぜかTVとかで 取り上げられていてちょっと驚いたのですが,…で今回の本…。 前著が話題になったせいか,まるで続編のようなタイトルが ついてますが原題はThe Emerging Mindつまり「見えてきた 心のしくみ」の方が原題に近いです。
この本はあるところでした講演の書き起こしらしいです。そのせいで かなりわかりやすい内容になっていると思いますが(後述),本人が 最初に述べているように概論ではなく取り上げた幾つかの事象を 深く考察してるのでかなり深い内容にもなってます。
つまるところ先に書いた茂木氏の「脳と創造性」と 同じように脳科学の視点から哲学的疑問について語れていて, さらにラマチャンドラン氏は臨床医師ですので,例が具体的で かなりおもしろいです。脳のある部分に障害が起きてその結果 いろんな認識,特に自己の認識等に変化が起きた例を挙げて いろいろ自己とかアート(人間が感じる芸術の要素の分析は 芸術好き人間のわたしにとってはかなりおもしろいです) とかいろんな事を考察してます。
深くてあまり具体的にわたしは書けないので,こういうことに 興味がある人は是非読んで頂きたいのですが,いずれにせよ 印象的なのは,こういう思考のしくみを説き明かすことが, あたかも「本当の心」が無くなることだと思いがちな風潮が あるのですが,ラマチャンドラン氏にしても先述の茂木氏にしても しくみがわかったからといって本物じゃなくなるわけじゃない…と いう指向なのが強く共感を受けます。別に人間が人間の心が 大事なのは神秘だからじゃなくそれ自体が真実だからです( 著者は中で「心のしくみが解明されて外から観察できるようになったら, 『気持ちが単なる化学反応』というのではなく『実際に起きていること』 という風に捕らえられるべきだ」というようなことを書いてます)。
そういう意味じゃこの本の範囲ではありませんが,人間が物質や 単なる動物だとしても人の命が尊いものであることには 違いありません。科学がどうも逆のように解釈している人が 増えてる気がして,そう危惧をわたしは感じます。
ちょっと話がそれましたが,とにかくおもしろいです。 ひとつだけちょっと苦言を書くと元々講演を記述した割りには, ちょっとわかりにくいところがあります。これは訳の問題じゃ ないのかなぁ…と思うのですが…,どうなんでしょう?。
- 心理学化する社会〜なぜ,トラウマと癒しが 求められるのか(斎藤環)(05/10/10)
- 斎藤環氏は以前戦闘美少女の精神分析 という本を読んだことがあります。サブカルチャーに強い 精神科医という印象です。
この本は現在TV等のマスコミで何かというと精神系の専門家が コメンテータとして登場し,また映画のストーリには ほとんどの作品で「トラウマ」が鍵となった話が多い…, そして巷には心や精神,癒し等をテーマにした本や題材が 溢れている…という現状にたいして疑問を投げ掛けている本です。
わたくしごとですが,わたしも自分のページにココロに関することを 書いたり自分の疑問を投げ掛けたりしていて,これを読んで かえって読んだ人に悪影響を与えることはないのだろうか?…と いうのはいつも感じてます。まぁわたしのページをそんなに 真に受けている人がいるかという方の方が疑問ですが(^^;)…。
閑話休題…。斎藤氏は実際に本を書いたりTVにでたりしてるので, ご自分でも自分がやってることとこの本の中の疑問に 綺麗に整合性が取れてないことは十分自覚されてます。しかし メディアで精神分析について話すことについてはメリットと デメリットがあって,悪影響があるから止める…っていうほど 簡単な話でもないようです。氏はトラウマが既に物語りになって いろんなところに使われていることを指摘し,そして大衆の なかで消費されていくのではないか?という危惧も持ってます。 またカウンセリングがブームになっているがそこにある問題点, 事件報道での扱い,また脳ブームのことなどを語ってます。
詳しくはシンプルにまとまっているので本の方を読んで頂いた 方がいいかとは思いますが,氏は危険性を指摘しつつも, すでにそういう手法から逃れることはできないという立場であり, 精神医療や心理療法自体を否定しているわけじゃありません。
それから,書かれてましたが, 臨床心理師と精神医師の違いをあまり意識したことありませんでしたが, そういや違いますよね。というか立場が違うというか精神科医の 方はわたしが思っている以上に心をソフトというよりハード的な ものだととらえてるなぁ…とも感じました。わかりやすくいうと 薬理で治そうという傾向が強いという意味です。
どうもこの本の一番言いたいことをうまくわたしは書けてない気がしますが, つまりは何事も心の問題にしてしまう…,そして個人の中でも それをいいわけにしてしまうとか,逃げ道にしてしまうとか そういうのも含めて(広い意味での)心理学が一種の信仰の様に なっているな…という疑問を持つ人は読んでみたらいいかと思います。 説明してる状況が具体的でとてもわかりやすいです。
- 痛快!憲法学(小室直樹著)(05/09/27)
- B5版の大きなサイズで表紙が江口寿史,本を開くと中には 北斗の拳からのイラストがたくさん引用されて 「おまえはすでに死んでいる」等と書かれているので,大変 不真面目…な本かと思いきや内容はかなりまじめ。ただし, おそらく高校生とかが読んでも大丈夫なようにわかりやすい 書き方になってます。著者である小室氏が編集者 島地氏に講義するという形式で書かれているため,口語体で 会話的に進んでいくために読みやすいというのもあります。 島地氏の素朴な呆けなどもあり読んでいて飽きません。
しかしここに書かれていることは決してお気楽なことや 楽しいことじゃありません。現在の日本において憲法が 死んでいる(正しく機能してない)事や,そもそも日本人が 民主主義や議会制度等を理解していないことが書き連なれて います。小室氏は本の中でいろんな問いかけをし,それに対し 島地氏が答え,その答えが間違っていると小室氏は怒るのですが, ほとんどの日本人は島地氏と同じような認識を持っていると 思います。
例えば,法律は誰かに対して書かれているのですが,憲法は 誰のために書かれているのか?,刑法は誰に対して書かれているのか?… 等…。ちょっと回答を書くと刑法は犯罪者や被告人に対して 書かれているのではなく,裁判官に対して書かれています。 刑法には犯罪するな…とは書いておらず,量刑が書かれている だけだからです。そういう意味で言うと憲法は国民に対して 書かれているわけではなく国家(権力者)を縛るために 書かれているものだそうです。
この本では西洋で民主主義が成立するまでの歴史が丁寧に 書かれており,そもそも議会制も憲法も民主主義とは無縁のところ から生まれており,いろんな歴史があり徐々に民主主義へ 変わっていったが,民主主義が悪いイメージだった時代もあったり, また平和主義が独裁者を産み出した時代もあったりで, 我々があまり認識していない歴史がたくさん書かれていて, ショックを受けます。そしてその中で述べられているのが, 現在の日本では憲法も死んでいるし,そもそも民主主義が うまく機能していないことに対してきつい警告を出しています。
たしかにそうで,日本では為政者が公約違反をすることに対して, 国民が諦めているところがあります(西洋だと暴動が起きても 仕方がない)。官僚が政治家(選挙で選ばれた人)の判断をあおがず かってに通達をだしたりしても,特に問題になりません。 極めつけは裁判が時の世論や行政側の意見に大きく引っ張られ 正当に行われていない。西洋では違法捜査があった時点で 裁判は白紙に戻るそうなのですが,日本ではそのまま進んで しまう。
- 言われてみればその通りです。日本人は民主主義が 国民(選挙民)と政治家(議員)の契約(選挙)であることを理解してません。 だから契約(公約)を破ってもすぐに諦めてしまいます。 本来は政治家は国民が作るものですが,日本人は「お上」は 国民の言うことを聞いてくれないもの…と諦めて無責任に ただ文句を言うだけです。日本においては国家はお上であり, 我々の代表が動かしているという意識がないのです。
これは結局のところ西洋における契約社会という概念が 日本に無いことが一番大きな原因で,西洋でそれが形成されるまでの 歴史を考えると無理もないのですが,やはり少なくとも頭では それを理解していかないと,ますます国家の暴走,つまり 憲法が機能していない状況は悪化していくように思いました。
というわけで,かなり読みやすくしかも知らないことが書いてあって 新鮮な本でお勧めです。ただし,小室氏が日本の法律学者は ダメだ…と書いているのであれば,逆に言うとここに書かれていることが 定説なのかはわかりません。でも読みやすいし,西洋史も 詳しく書かれているので,そっち方面に興味がある方にも お勧めします。
- 脳と創造性〜「この私」というクオリアへ(茂木健一郎著)(05/09/18)
- わたしは茂木氏の著作はそれなりに読んでいて,御本人ともたしか 一,二回くらいあった事あるのですが,その本人の最新刊か?。 5月に「脳の中の小さな神々」を 読んだばかりなので結構筆が早いなぁ…という印象。まぁ 前のはインタビューですけど。
で,今回の本。大変すばらしい。というか読んでいて痛快でした。
茂木氏というとバリバリの脳科学者でかつ物理系の人(違ってたら ごめんなさい)なんですが,この本はタイトル通り「創造性」に ついて書かれてます。コンピュータが発達してきて人間には 単純作業ではなく創造性が求められる…という話から 始まってその創造性とはなにか?…という話をあくまでも脳科学者からの 視点で書いているのですが,トータルなメッセージは啓蒙書というか 哲学書というか生き方というか…そういう風に私は捕らえました。 つまり私が自然科学と別の方向として好んで読む「ココロ」の 話の本のメッセージとメッセージ的にはだぶるわけです。
しかし痛快なのはそれがあくまでも脳科学の視点で説明されている。 例えば人を愛するときに値踏みをする時に用いられる前頭葉の 活動が低下する。つまり愛するときは物事を値踏みせず受け入れるという事, 創造は批判することから生まれないということから愛と創造の 間には関連がある…なんて書いてます。
これは宗教家や思想家が述べる愛の重要性とは全く違った 説得力を持っており,データがないものは信じない…と言うような 堅物な人でも「そうかも…」と思わせるような説得力があります。
他にも「一回性」について語られていて,人間は初めての体験というのは それ以降とは全く異なる。なので一回性というのは大事なのだけど, 個人レベルではなく大衆レベルに一回性を起こさせられるのが天才だとか, 一回性ゆえにオリジナリティというのは高く評価されるというような 話が書いてます。これも人間に初めての体験があると脳構造に 変化があるという話から始まっていて,あくまでも科学です。
そして重要なのは創造というのはどんな人間にも可能で,いろんな レベルでの創造が人間の中では起きている…,そしてより良い 創造が起きるために,人や物に多く触れた方がいいと言うような 事も書いてます。
この様にこの本は一見脳科学の読めますがメッセージが かなり強い本です。その伝えてくるメッセージはわたしにも 大きく共感するのですが,その説得性が脳科学からきているというのが 実に新鮮でした。 うーん,やっぱり科学も宗教も哲学も目指しているところは 同じなんだなぁ…と。そして茂木氏はこれで自然科学を 一歩上に引き上げてるんだな…という事を強く感じた本でした。 お見事。
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