読書メモ(2003年11月〜12月)

2003/11/16:作成
最近読んだ本から…メモなどを。

書籍編

江戸の春画〜それはポルノだったのか(白倉俊彦)(03/12/21)
先日江戸時代の性の本を読んだが,その 一連で見つけた本です。(主に)江戸時代の春画についての解説をし, そこから当時の日本人論を語るというもの。最近,現代日本人が 持っている習慣や概念,考え方等が明治以降,もしくは戦後に 強力に刷り込まれたものだ,という考えからそれ以前,つまり 江戸時代の日本人の考え方を再考察しようという動きが盛んです。 明治以降西洋の技術・概念の取り入れを盛んにしてきて,成功してきた 高度成長に陰りが見えてきたところからの反動だとわたしは 思ってます。
性のモラルも当時と今は全然異なっており,現在の日本人が持っている モラルは主に明治以降の西洋の影響が強いということで,性の 価値観を考え直す本も増えてます。この本もその一つでしょうが, あまりモラルについては触れていません。というか「モラルがないので 不倫はない」軽く切ってます。
この本のポイントは春画の表現から当時の考え方を取り上げようとしていて, 春画の特徴である性器が巨大に描かれている点,乳房がほとんど 強調されていない点,(女性は)全裸が少ない点,また登場する人々から 語ってます。またそれらの絵に対して言葉が行っている役割なども 考察してます。
だいたいタイトルから「ぽるのだったのか?」とか書いておきながら, 序文で「ポルノかどうかは問題じゃない」と書いているところは, もしかするとこのタイトルは編集がつけたものだったのかもしれません。
まぁそれはいいとして,考察は結構過激に行っていておもしろく, 性器が大きいのは,愛や性が人間の中で占める割合が大きいのを 表現するためではないか?,と書いたり,乳房が強調されないのは, そもそも性器の結合がセックスだったということと,女性の乳房の成長は 第二次成長,もしくは女性というもののシンボルであり,日本人(男性)に おける他者性の不在を表わしているのではないか?…などと言うことを 言っている。
まぁその辺の考察はおもしろいのだが,その他の夜這いの話(これは 江戸の性の話には良くでてくる)や若衆を男や女が買い漁った話など, 当時の性習慣を語ろうとしている点が,幾つかあるが,これは現在の アダルトコンテンツが現在の日本人の性習慣を表わしているか?と 言われると,かなり疑問があるので,素直に読むのには危険が あるかも知れない。まぁその辺は作者も意識しているのか,誇張された 表現や「あり得ない」話にむしろ妄想していたってことも 書かれてはいるが…。
しかし,わたしはこの本を読んで現在の日本を考えると,数百年後の 人達が現在のアダルトコンテンツを見てどう思うか?…と思うと, 少々滑稽な気がして,おもしろく思った。

フロン(岡田斗司夫)(03/12/03)
ある意味家庭の…夫婦のあり方を提案している本ですが, 最初に一点,現在の夫婦関係や家庭関係で困っていない人は 読まない方がいいと思います。あと,結婚していても子供がいない 人も関係ありません。ここで言う家庭は子供がいる家庭に 限定してます。読むといろいろ悩む人もいるんじゃないかな?… と思うので一応書いておきます。
さて,岡田氏というと以前「僕たちの洗脳社会」という本を読んで,結構おもしろい 事を書く人だと思っております。今回このインタビューを読んで,この本も読みたくなり 買いました。文体的にとても読みやすかったです。「フロン」は 「父論」であり「夫論」であり「婦論」らしいです。
言ってる事には多いに共感できるし,視点も正しいというか鋭いと思います。 家庭は子育の職場であり,恋愛を持ち込むべきではないという 意見は実は最もだという気がします。ただ女性は恋愛を (いわゆる)職場に持ち込もうとする傾向があると思うので, そもそもそういう切り分けをする事自体が苦手なのではないかとも 思いますが…。
岡田氏は男女の性差を文化,社会,教育,歴史のせいと断言して 先天的な性差をきれいに否定している。これについては最近の男性脳とか 女性脳の話と反するし,わたしも多少異論はあります。 しかし,もしそうだとしても岡田氏はおそらく先天的性差を 取り上げると,いかに我々が文化や社会から影響受けて現在の家庭の 在り方に対して思い込みがあるかがわかりにくくなるために 敢えて無いこととして書いているのだと思います。 たしかに先天的性差があったとしても,それ以外の後天的な 要素の影響が強いと言えないことはありません。
さてそういう風に考えて,外で働いて家庭で子育の仕事をしない夫 (妻の場合もあり得る)は家庭では全く役に立たず,むしろ家庭にいると 子供の教育上悪影響を及ぼす…という事を言っています。そして 結論としては夫をリストラすべきだ…と。
実はわたしは夫をリストラすべきとは思わないまでも,夫が例え妻が 専業主婦であっても,家庭をやすらぎの場にするというのは虫がいい話だとは 思っていたし,子育の段階では,専業主婦だからといって, 家事がこなせるほど余裕がないというのも良くわかります。であるが, 岡田氏は更に不要で邪魔だからリストラすべきだと言っています。
岡田氏のこの発言は女性にいくらか反発を買ったようですが,むしろ この結論は旦那の方にきつい結論だとわたしは思います。なぜなら リストラされても(氏の提案では)旦那は養育費は払うわけだし,それに加えて 居場所がなくなるから…。
個人的にはちょっとこのモデルは極端過ぎると思う。というか夫にも妻にも かなり高度な理解が必要であり,そこまで冷静に自分の価値観を 再構築ができるカップルがそんなにいるのか?と思うからです。 また基本的にこれは高コスト体質だと思います。
確かに大家族制から核家族制に変わるときに姑はリストラされたわけですが, その結果,年金制度,介護ビジネス等が必要になったわけです。 年金制度がすでに破綻しかけているのは周知のことです。 結局家族が分断されれば,自分以外はほとんど他人となり,その中で 何か労働力やものの流れがあれば全て金銭の授受が必要になります。 夫婦が別居して経済的に援助するというのは,確かにある意味で 子育には理想なのかも知れないが,やはりそれはある程度収入がないと 無理だよなぁ…と思います。
さて,彼が提唱するこのモデル,机上の空論かといえば驚くべき事に 彼自身が実践しています。しかも自分の体験から得たモデルではなく, モデルを考えた後に実行しています…。ただわたしは彼がそれを 実践したせいでむしろ彼のモデルの一般性が減った印象があって,それが もったいく思います。以前の彼の著作を読んだときに思いましたが, 彼自身が非常に賢明な上に,彼の奥さんは更に賢明な人な様です。 そういう特殊ケースでうまく言っている例…とも取れてしまうところが あるのが残念といえば残念。

神話と日本人の心(河合隼雄)(03/11/16)
わたしが古代史,特に日本の古代史が好きなことは何度も 日記や読書メモで書いているので,ご存じかと思います。 ついでにいうと宗教の話も好きです:-)。
日本の古代史というと「神話」ということも出来ます。日本書紀や 古事記,風土記に書かれているものには天地の生成などの話もあり 「歴史」なんかではなく「神話」と言うべき内容が多いからです。
さて,この本では冒頭で「人間には神話が必要」と書かれています。 この辺の話は先日メモを書いた「 脳はいかにして<神>を見るか」 にも書かれてますが,人間には自分の周囲状況を分析推測する 本能がありまる。それこそ「自分達はどこから来てどこに行くのか」などと いう疑問を勝手に考えてしまい,それなりに答えを出さないと 不安で暴走してしまうのです(これは本に書かれているわけでは, ありませんが,これらを読んでわたしが思うことです)。
というわけで,今回の本は,日本人がどういう世界観,どういう 思想に基づいて…というよりは,むしろ思想・世界観を伝えるために 神話を作ったか?…というのがこの本の主旨です。
結論をいうと日本の思想というのは三つの柱を並べて,しかも その真ん中を中空にするという構造をもっているということを 一番強く述べています。つまり真ん中に真実があるようなものではなく, 複数の立場の微妙なバランスで成り立っていることを示している というものです。また家庭における男女も,女系と男系の 微妙な力関係の行ったり来たりで,発展していることなども 指摘しております。
つまり日本人が極端な意見をいうのを嫌って,どっち付かずの 状態を好むのは,そもそもそういう神話の影響というか, 日本の全体にそういう思想があるのだ…という話になります。
作者は日本だけではなく,世界の神話との比較も書いており, 日本の思想の特徴と西洋やアジアの神話との比較なども行っていて, なかなか興味深いです。
しかし,考えてみたら,驚くべきことに, この本は少なくとも神武天皇以前の神代の話を,まるで作り話のように 扱っています。わたしは今までたくさんの古代史の本を読んでいますが, もちろん神代の話を本当にあったこと…と書いている本は皆無ですが, 少なくと実際にあったことに対応して書かれているという風に 解釈しているものがほとんどです。この本のように思想が先にあり 作り話を作った…という立場のの本があったのには少し驚きました。 というかこの作者は文化庁長官らしいのです。 これには凄くびっくりしました。
日本の歴史に関しては現皇室の血統を「作り話」と公式に いうのはタブーかと思ってました…。まぁ確かに神武天皇以降に ついては全く考察してないので,それ以前に限っているのですが…。
もっとも教科書を読めば,さすがにその辺りの記述は「ありえない」 とわかるようになっていて,別に歴史の捏造はしてませんが:-)…。
最後の話は,ちょっと余談ですが,いずれにせよ今まで 歴史学者や考古学者が語る古代史ばかり読んでましたが,今回は ユング派の心理学者が語る日本の心のあり方として神話の話であり なかなか興味深かったです。

江戸の性談〜男は死ぬまで恋をする(氏家幹人)(03/11/16)
江戸時代の性に関する話を紹介したもの。わい談というよりは 文化論…とも言えますが,ちょっと読みやすくするためか, そんなに学問的な内容という感じではなく,お話…という感じです。
話の根拠としては浮世絵(というか春画)や当時の芝居や本等から 当時の性の様子を語っております。
いまの我々の常識からいうと眉をしかめるような話もありますが, 作者自身が,そういう糾弾をするのではなく,あくまで当時は それが普通のことだった…というスタンスで語っており, まぁこちらもすぐに眉をしかめるのはどうかなぁ…という つもりにはなります。
わたしも例えば処女信仰などというのは明治以降の西洋の 考え方であり日本には本来そういうものはない…などとはしってましたが, ただそれでも妻の貞節は非常に重要視されていた…と,いうのは あまりしらず,なるほど…と思いました。
とはいえ,ここに書かれていることが本当に「本来日本人は そういうものだから,そういう風にあっていいものだ」と 思って良いものばかりかというと,そうでもない気がします。 例えば,男の子はだいたい13歳くらいで初体験する,女性も そんな雰囲気ですが,ともにだいたいの場合,年上の人と経験を するというものだったみたいです。これを「歳上が性教育をしている」と 取ることもできますが,良く読むと子供が嫌がっているのにやっている 場合もあるみたいです。ついでに書くと,当時の武家は男色が あったようで美少年はやはり同じくらいの時に,大人の男に やられたりしているようです(^^;)…。
で,本人たちは嫌がっているが,親は相手が金持ちとか偉い人だと 喜んだ…などという話が書いてあります。「当時はそれが普通だった」と いう感じで悲壮感はないのですが,やっぱり子供が嫌がっている…と 言うことは,それが青少年の虐待と言えるかどうか?…,というのは なかなか難しい…気もします。
まぁこういう本は現在の今の常識が実は本の最近成立したものである ことをわからせてくれますし,時代とともに男女の性の在り方が 変わっていくのも当然かな?…とは思いますが,だからと言って, 別にあるべき姿を昔に求めるべきものでもないのだなぁ…とも 思ったりします。
考えるヒントにはなるのですけどね。

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