新しいジャンルに必要な条件とは?

フュージョンというジャンルの音楽がある。私自身は あまりフュージョンという音楽を聴き込んでいないが,わたしの 周りにはフュージョンファンが多い。 わたしはかって フュージョンはなぜ死んだか?と文を書いたが,現在フュージョンは ジャズなどと境界が曖昧になるような発展をしつつ,一般の リスナーが聴くほどのヒットはしていない

先日そのフュージョンファンが集まりセッションを行った。 フュージョンファンが集まるからほとんどフュージョンを演奏したわけで あるが,聴いていて,初期(70年代後半〜80年代前半)のフュージョンが 多いことに気が付いた。もちろん集まった世代のせいもあるが, 実際にフュージョンの典型的な曲は,この頃生まれ,当時は結構 ヒットした。インスト(歌無し)であるにも関わらず, TV-CMやラジオでよくかかっていた。確かにポップで売れそうな曲ではあるが, 現在はこういう曲はヒットしない。なぜだろう?。

フュージョンは一つのジャンルとして確立するくらいの 現象になり,現在にいたっているが,それはフュージョン自体が それ以前の音楽(ロック,ジャズ)とは違う特徴を多く持っているという 新規性を有していること,そしてその音楽実際にヒットした からであろう。例え新規性があってもヒットしなければ,ジャンルとしては 定着しないし,ヒットしても新規性がなければ,それは他の音楽の 一バリエーションとして残る。

フュージョン全盛のころの曲をあらためてセッションで聴いていて, 気づいた。曲自体が非常にシンプルなのである。もちろんオリジナルは かなりのクオリティで演奏を行っているが,アマチュアでも形だけは コピーして演奏できる難易度。コードもすごくシンプルだし,リズムも 単純である。今の視点から見ると本当に入門用の曲なのである。

「シンプルながらも,いい曲だなぁー。ポップだし」とか思いながら 聴いていたが一方で「昔聴き込んだからだろう…」というぐらいに 考えた。しかし,ふっと,「シンプル且つ新しいからヒットした」 ということに気づいた。新しいジャンルとして定着するほど ヒットするには新規制とシンプルであることが重要なのではないか?。 生まれたてのフュージョンのシンプルさは,今では模倣できるくらいで あるが,それまでの7thやマイナーを中心としたコードからメジャー系を 多用したコード進行,クローズドハイハットを多用した16ビートの リズム,電子楽器の多用,ソロとテーマ比率の見直し,など実は それ以前のジャズやロック等と比べると,まるで異なっているのである。

コロンブスの卵と一緒で,一旦使い方がわかると,それを 再現するのは簡単である。しかし,当時その音楽を聴いた人々は, そのフュージョンの持つ特徴に対し,今まで聴いたことのない新鮮さを 感じたのではないか?。そして,その特徴自体がシンプルなため, 新規性をすんなり理解でき,それがヒットにつながったのでは ないだろうか?。

しかし,一旦発生した一つのジャンルは,同ジャンルの他の曲との 差別化のため複雑化する。高度な演奏テクニックを 要求するようになったり,コードやリズムも複雑化する。更に 他のジャンルの音楽と融合したりして複雑化していく。 しかしこういう発展は,そのジャンルのファンを喜ばせはするが, 一般のリスナーを新たに引き寄せるようなヒットはしなくなる のが常である。

そして,その複雑さがある段階を超えたとき,その混沌を 垣間見るかのように,あたらしいシンプルなジャンルの音楽が発生する。

例えば,モードはビバップのコードの細分化やテンポの高速化の 反動として生まれた。モードは今の視点で,見れば結構単純であるが, 当時のミュージシャンはどう演奏していいかわからないほど, 新しいものであった。ロックもジャズが高度化し,踊ったり 歌ったり出来なくなった反動で生まれたとも言えるし,ファンクも 同じようにコードなどを極力シンプルにするかたちで生まれている。 重要なのは生まれたてのジャンルは後世から見ると,かなり シンプルなことである。

つまりフュージョンはジャズとロックの融合と言われているが, 単にジャズとロックを組み合わせてつくったというより,むしろ 余計なものを全部取り除き,あたらしいコードやリズムを 基盤として,一からシンプルにつくり直したと 言えるのではないだろうか?

そう考えると,現在アメリカで流行っているスムースジャズと 初期のフュージョンの大きな違いがはっきりする。両方とも シンプルなのではあるが,スムースジャズは単純に 初期のフュージョンのシンプルさや,歌謡曲のメロディアスさを 流用しただけなのである。後世の人が,コロンブスの卵を 立てているのと似た印象をうける。フュージョンが 生まれ変わりだったのに対し,スムースジャズは先祖返り ということである。

であるから,アメリカで例えスムースジャズがヒット していようが,これは将来にわたりずっと発展しいくような 一つの大きなジャンルなるとは思えない。まぁいま スムースジャズを好きな人にはどうでもいいことであるが…。

文化というのは,継続性もあるが,実際は常に新しいスタイルを 求めているものである。したがって同じジャンルやスタイルも 時間が経てば変化していく。しかしそうやって変化して出てきた ものが,新しい一つのジャンルとして確立するには十分な 新規性とヒット性が必要で,そしてそのためには新規なものが シンプルである必要がある。この様なものはなかなか出会うのは 難しい。 複雑にして変えることは簡単だが,シンプル且つ新しいというのは 難しいのである。 そういう出会いといえば,例えば全く異文化のもの, そう民族音楽とかに触れたとき,聴いたことがないのに, なんとも懐かしいというかしっくり来るときがある。 実際にヒットはしないが,それに近い感覚かも知れない。

インストルメンタル(歌無し)の音楽は現在大きなヒットは 作り出してないが,確実に変化している。 歌ものも現在は70年代のロックやニューミュージックを 基盤として変化してきたものである。 しかしそれらは複雑化の方向か,原点の見直し的な変化が 主のようである。 しかしきっとあたらしいジャンルは生まれるはずである。 次にどのようなシンプルなものが生まれるかはわからないが, それは確実にやってくるものである。


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00 Jun. 15th


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