Computer Music

コンピュータミュージック研究の意味
(Computer Music Symposium IIレポートにかこつけて)

2001年3月8日，NTTコミュニケーション科学基礎研究所が主催する「コンピュータミュージックコンポジウムⅡ」というのを見に行った。このシンポジウムは1997年にもたしか行われている。NTTの研究所でコンピュータミュージックというか，いやそう書くと別のものを想像する人も多いと思うので，音楽情報科学と表現した方がいいだろう，それを研究している内容の紹介…という感じのイベントだ。単なる研究発表会ではなく，後半にその技術を使った作品を演奏する コンサートがつくところが，このイベントのユニークなところである。
このイベントについて，感想を書こうと思ったのだが，このイベントにはわたしの知っている人が多く係わっているし，そもそも研究の内容を批判するということが，自分もそうであるので，天に唾を吐くようなことで，結構なやましいのだが，誉めてのびるようなものではないし，自分が興味がある研究分野なだけに，慎重に考えたいため，かなり きつい書き方をする。読んで腹を立てる人もいるかと思うが，先に謝っておきます。すみません。
わたしは長年音響の研究とか技術に携わってきたが，音楽というのは，なぜかわたしにとって聖域になっていて，直接音楽自体を情報処理的に研究したことはない。しようと思ったこともない。この姿勢はたぶん会社に入る，つまり研究者になろうと思ったときには既に決意していたと思う。理由は一応あるのだが，最近研究のネタを探したりしているうちに，決心が緩んできたというか，すこし考えてみようかと思ったりしたこともある。
と…，揺れながら行ったわけだが，それに対しての今の答えは，まずシンポジウムのレポートを書いてから書くとする。もちろん，今回のシンポジウム，イコール，音楽情報処理ではないというのはわかっているが…。
「挨拶」等を除くと技術発表は5件，うち1件は招待講演で，のこりはNTT研究所の発表，つまりNTTの研究を発表するのが本シンポジウムの目的とも言える。
最初は招待講演で，大阪大学の助教授の研究室でつくったたくさんの新しい楽器を紹介していた。 PDAやゲーム機等を使い，小さな電子楽器をつくるというもの。 工作としては結構面白い。とはいえ…，新規性という意味ではどうなのだろう?。楽器ってそもそも携帯性が高いものが多いし，電子楽器に限っても，ジャミネータとかQY20の様に，持ち歩けるものは既に存在する。PDAを使ったのであれば，ネットの機能を入れるとか，もうちょっと従来の楽器にできないことをなにかやって欲しいと思うのだが。
次はコンピュータにアドリブというか編曲をやらせようという発表。入力された音楽を解析し，意味付けをし，そして，書き換えるということになる。これは音楽情報科学という感じがする。現状の処理の音を発表でながしていたが，現状はちょっと…，という気がするが，かなり難しいテーマであるので，実現するかどうかは良くわからないが，研究の価値はあるのかも知れない。
次は楽音合成というか加工技術の発表。音声分析の手法を応用して，今までにない楽器の音を作り出す…という感じだろうか。確かに理論としては綺麗。ただし実際の出音を聞くと，そういう大層な理屈をつけなくても他の手法でつくれるような音のような気がするのだが…。
次がホーメイの時の声帯の映像。これは現象分析という意味ではとても興味深かった。コンピュータミュージックなの?…って気はするが。まぁご愛敬か?(^^;)。
最後が笙という楽器の分析。楽器音響って古くて新しいテーマなのね…，と思った。ただ和楽器については私の大学でやっていたので，やられていないといわれると心外である。ただし，最近の新しいシミュレーションの技術の手法でやってないといわれるとそうかも知れないが。
以上が発表のわたしの受け取った印象である。聞いていて思ったのが，確かにお題目はいいのだが，実際に到達しているアウトプットをみたり聞いたりすると，すごみがないということだ。確かに技術的には高度だが，実際に出ている音が，それを感じさせない。つまり，この技術を使ったから，何かすごいことができる…という感じがしないのが現状な気がするのである。確かに，この方向で進めていけば，将来すごいことが出来るのかも知れないと思わせるようなテーマもあるが，いかんせん方針だけなら，可能性や，それを成し遂げる人がそこにいるのか?と言う意味では，どうしても疑問が浮かんでしまう。
もっとも，今回のイベントは一般向けのという事で，かなり簡略化したのかな?と思ったりもする。実際に論文とか見ると同じ人のものでもかなり，突っ込んだ内容だったりすることも事実だったりする。
コンサートの様子については別途書くとして，そこでの印象も踏まえて最初のわたしの思いに戻れば，つまりは「音楽情報科学が音楽に対してどう寄与するのかがイメージできない」のがわたしが躊躇する理由の一つなのだと思う。私自身が，音楽が好きで，音楽を聴いたり，演奏したり，そして考えたりしているのであるが，それゆえに，「技術的に面白いから」という理由で，つまらない (とわたしが勝手に感じる)音楽をつくっても仕方がないと思うのかも知れない。音楽理論とかも勝手はいろいろ考えたりもしたが，現状は，表現の束縛になるような理論は切り捨てる方向に，わたしの関心が向かっていて，自分のなかで音楽を体系化する方法が，ルールより感性を基盤とした方向に向かっているというのもある。わたしが関心があるのは，もしかしたら感性を非言語で再現性がある形でとらえたいということなのかも知れない(書いてて，矛盾することのような気もするが…)。
つまりは，どんなに複雑な計算をして，音をつくったり，音楽をつくったりしても，市販の機材とソフトを使って，新しい音や音楽をつくっているミュージシャンが多くいる以上，それ以上のなにかを期待させてくれないと，魅力的な研究分野な気がしないわけである。
もっとも，「いい音楽」とかいうのは人により異なるから，自分が単に，その技術を使っていい音楽をイメージ出来ればいい のだが，それが出来ない自分にも，発想の貧困さを自覚したりもする…。
最初に「コンピュータミュージックというと誤解を…」と書いたのは，結局，研究者ではなく，ミュージシャンがコツコツとコンピュータを駆使して作り上げてきてる音楽も，ずいぶん昔からあって，しかし，それと音楽情報科学の研究は，なぜか乖離している感じがするのだ。出来れば，そういう最新の電子楽器や，音楽制作の現場をきちんと検証して，そこを越えるような研究の進め方をして欲しいと思う。そして，ミュージシャンが経験的に知っていることなどを，きちんと研究に反映する形で進めて欲しいと思う。音楽というのは，多くの人の心をとらえるものだから，様々なところで，いろんな人が考えている。それゆえ，すべての人のこれまでやってきたことを調べるのは難しいとは思うが。
昨今の電子楽器・機材・ソフトの変化はすさまじく，ローテクハイテクに限らず，新しい音は毎日生まれいている。新しい音楽の誕生には新しいテクノロジーや理論が大きく貢献しているというのは，わたしも強く思うところである。しかしそれゆえに，大きく貢献できるような技術ならやってみたいと思う。

以下余談…。
念の為，断っておくと，すべてに否定的なわけではないです。機械が自動に演奏者と一緒に即興をするようなシステムは，うまく行くと新しいパフォーマンスを産み出すとは思いますし。ただコンサートを聴いて思ったのは，「いずれにせよ，出音をうまく音楽的に仕上げるかだな」と言うことです。研究の質という意味では関係ないのかも知れませんが…。

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コンピュータミュージック研究の意味 (Computer Music Symposium IIレポートにかこつけて)

01 Mar. 9th

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