「スロー・イズ・ビューティフル」 でも何カ所か引用されているので,気になって読んでみた。 前述の本が,個人の生き方を書いているのに対し,この本は 国家システム,経済システム…等の話を中心に書いている。 したがって人によっては自分にはあまり関係ない話だ… と思うかも知れない。
しかし,この本の狙いは自分達が「常識だ」と思っていたものが 実はつい2,300年に出来た考えで,決して恒久的なものではない, したがって,そのやり方の先に破綻が来る可能性もある…と 警告している。そしてみんなそれに気づいているのに,現実感が なく,目をそらせていると言っている。
以下にその本からいくつかその常識と勘違いしているものを挙げる。 以下は,わたしが要約してるので間違っているかも知れません。
近代国家とは「正当な暴力」を有している。それは「警察権」「処罰権」 そして「交戦権」のこと。これは個人同士の暴力が支配するより 国家にそれを委託した方が安全だろう…という仮説から 生まれた思想で,実は20世紀のはじめは,そういう国家は少なかった。 しかし現在ほとんどそういう国家になってしまった。つまり このシステムは新しい常識である。しかし皮肉なことに20世紀は 国家によって行われた殺人がもっとも多く,しかも軍隊の大半は 国外の人間より国内の人間(民間人)を殺しているという現実がある。等という事が書かれてます。 なかにはちょっと強引な論旨もあります。たとえば20世紀に 人がたくさん死んだのは国家の構造以外に,兵器の発達が 原因な面もあるでしょう。現在世界の主流である経済発展論は1949年以前はなかった イデオロギーである。それ以前は「近代化」や「未開発の国」という 言葉すらほとんど使われてなかった。 もともとdevelopという単語は自動詞で,この1949年以降他動詞に なった。つまり未開発の国を他の国が開発するという考えが 生まれたわけである。
これは植民地政策が出来なくなった戦後考えられた搾取方法である。 なぜなら発展によってみんなが豊かになることは不可能で,事実 貧富の差は広がっているからである。
そして,現在こそ未開発の国の人が先進国の文化や技術に あこがれるが,そもそも植民地開発が始まったとき,そういう考えは 全くなく,お金やものと引き替えにするといっても労働力は 集まらなかった。なぜなら食べるのに困ってなかったからだ。 仕方ないので奴隷として強制労働をさせた。 しかしそれと平行して,その国の人たちを一生懸命洗脳して できあがったのが,「発展し豊かになる」という間違った 思想である。
本来資本主義と民主主義は相反する言葉だった。選挙制も 本来は民主主義ではない。賃金労働というのは20世紀前半までは ヨーロッパでは侮辱的言葉だった。 アリストテレスは民主主義には社会に余暇,自由時間があることが 必須条件と言っている。
しかし,上記の事をはじめ,この本に書かれていることは, 国がどういうものだ…というのを考えるきっかけに なりますし,なぜ我々が働いていも働いても時間に余裕が 出来ないのか?,元気にならないのか?,もしかしたら, なにかだまされているのじゃないか?…という疑問に, いくつかのヒントを与えてくれます。
この本の作者が外人なのに,原題がないのは,実はこの作者は 日本に40年以上住んでいるアメリカ人で,口述で書かれた 本だからです。したがって最初から日本人に向けて書かれた本です。 そして出版時期からわかるように,これは同時多発テロ以前に 書かれた本です。今この本を読むと,テロ以降顕になってきてる アメリカのごまかしが,すでこの本には書かれていることが わかります。そういう意味で言うと,現在TVで 騒がれている,株が下落して大変だ…という言葉ですら, 何かしらのごまかしのような気がしてなりません。
いずれにせよ,この本はいくつかの国家論というか イデオロギーを挙げてますが,結局それって宗教と 同じなんだなぁ…とも感じました。イデオロギーでも 宗教でもどちらでもいいのでしょう,今,何か新しい 指標が必要な時期に来ているように思います。