最近読んだ本から…メモなどを。
書籍編
- モーツァルトが求め続けた「脳内物質」(須藤伝悦著)(09/07/31)
- モーツアルトの音楽にいろんな効用がある…という話がまことしやかに 語られていて,私はそれに対しては少し冷ややかに感じています。 というわけで,あまりそういうことを書いた本を読むつもりも なかったのですが,ネットでちょっと紹介されていて,あと筑波大の 医療系の先生が書いているので,何か科学的な解釈でもされてるのだろうか?と 気になったので,買ってみました。
概要としては著者はドーパミンと疾病の関係を研究してる方で パーキンソン病やADHDとかあと癲癇とかそれらと体内のドーパミンの 量や作用の関係をマウスを使って長年調べているようです。その中で ドーパミンの量の異常がこれらの病気を引き起こすことがわかってきたと いう話についてはさすがに丁寧に書かれてました。そしてモーツアルトの 逸話からモーツアルトがドーパミン異常があった病気ではなかったか?という 推理,あとマウスにモーツアルトの曲を聞かせたらドーパミンの量が 変化した…ということを書いていて,これらのことから,モーツアルトの 音楽にいろいろと効用があるのは,モーツアルト自身がドーパミン異常に よる病気で苦しんでいて,その症状を和らげるためにそういう効用のある 音楽を作ったのではないか?という推理をしてます。またその音楽は マウスにも聞くということを書いてます。
わたしの感想を書くと,最初に書いた死の研究周辺の話は丁寧で論理展開も (私が素人だからかもしれませんが)無理がなく純粋に興味深く読めました。 ドーパミンがそれらの病気に関係してること,精神に大きく影響することは 納得がいきました。またモーツアルトの逸話からモーツアルトがそういう 病気だった…ということは著者の推理でしょうけど,まぁそれもありえる かも知れない…とは思いました。モーツアルトが作曲することで 癒されていたということも,そういうこともありえると思います。 というかその論理展開は結構すばらしいと思いました。
ただ,だからと言ってわたしはモーツアルトの音楽だけが特別とは 思いませんし,そこの周辺の論理展開には飛躍があるように思います。 また不思議なのはマウスにも利いたという点で,著者の実験がどれくらい 信頼性があるのかよくわかりません。音とか音楽は時系列なので わたしの感覚では身体サイズで適当な高さが変わる気がしますし, よく子供が母親の心拍のテンポを快く思といいますが,マウスは 心拍のスピードは速いはずです。著者はモーツアルトの音楽は 高域成分が多いから…といいますが,小動物は人間よりはるかに 高い音を普通に聞いていたりもします。ですから,人間が心地よい音楽が マウスにも心地よいというのも不思議ですが,それが事実としても, その理由の考察には,これだけでは納得いきません。
あと確かにモーツアルトが自身の病気を癒すために作曲してそういう 効果があったとしても,であれば,そういう音楽はもっとほかの 作曲家の曲でたくさんあっても不思議でありません。著者はモーツアルトの 教育環境を挙げて説明してますが,やっぱり理由として不足のように 感じました。
もうひとつ,こちらに関しては私は素人ですが,ドーパミンですべてを 説明しようとするとこにちょっと引っかかりました。脳内で感情に作用している 物質にはドーパミン以外もセロトニンやノルアドレナリンをはじめ, いろいろあり,精神疾患とかにも影響してると思うのですが,そちらの方に 対する解析は全く出てきませんでした。
- 総じて,わたしは音楽に特別な力があることには異論はないのですが, 特定の音楽が多くの人…さらに人間以外のものに対しても影響があることに 関しては,あまり納得のいくものを思いつきません。それはわたし自身が 音楽ファンでもあり,音の研究者だからでもありますが,その結論を 導くには多くの検証が必要だと思ってます。ですので,この本の その部分に関しては,とりあえずは間違いとは言いませんが,納得も しませんでした。ただ著者が書いている「音楽で覚醒しているだけという 人もいるが,覚醒して気持ちよくなっていることには違いない」という 意見には共感します。特別なものでなくても,ある人にとって気持ちよく 身体にも好影響があるならそれでいいじゃないというのはそうだと思います。 だからこそ,特定の音楽を特別視することに対しては異論を持つのですけどね。
- 榎本俊二のカリスマ育児(榎本俊二作・画)(09/07/30)
- 榎本俊二というとかってモーニングで「ゴールデンラッキー」というギャグ 四コママンガを描いていた漫画家です。とってもシュールな作風で 変なマンガで個性的だったのでわりと好きでしたが,その後に 始まった「えの素」というギャグマンガはシュールさよりも 下品さが強まっていてちょっと好みではありませんでした。まぁギャグマンガは 絶妙なバランスが必要なので,いつまでも好きなマンガを描いてくれるのは 難しいとは思いますが,たぶんファンはいたはず。
最近見ないなぁと思っていたらネットでこの本の紹介を見たので, 買ってみました。子育てエッセイか?と思って買ったら子育て エッセイマンガでした。そういえば,このページでマンガの 感想を書いたことはなかったなぁ。まぁエッセイだからいいか。
榎本氏は夫婦ともに漫画家のようで,子供ができて家で仕事してるから 子育てに参加して,さらにもう一人生まれて…みたいな話を 榎本氏らしい作風で描いていて結構おもしろかったです。ゴールデンラッキーの 時の様にひどい状況になっていても登場人物は無表情にひどいことを 言ってる…その感じがこのエッセイでも出てました。榎本氏自体が 育児で苦労してるようなのですが,本人はあまりきつそうな表情を しない…でもセリフを観ると結構怒ったり嘆いたりしていたんだろうな…と いう感じが伺えます。
育児大変そうだなぁ…と思いつつ自分もああいう風に口で毒舌はいても ぶちきれることなく対処できるといいなぁと思いました(笑)。あと マンガ読んでると,家族への愛がひしひし感じられてそれも良かったです。 登場人物は総じてひどく描かれてますが,奥さんだけは結構大事に 描かれてる気はしました。
- からだビックリ!薬はこうしてやっと効く ― 苦労多きからだの中の薬物動態(中西貴之著)(09/07/11)
- わたしがpodcastで聴いている ヴォイニッチの科学書のパーソナリティである中西貴之氏が 書いた本。この人,podcastで科学の話題の紹介をやっていて, サイエンスジャーナリスト的な印象を受けますが,本職は とある企業の研究者らしく,他に細菌の話とか雑学とかの 話も書いてますが,どうやらこういう薬の話が本職らしいです。 ちがうかもしれませんが。
タイトルからわかるように,薬そのもの話ではなく,薬がどのように 人間の体に吸収されて効くかという話です。薬というのはその成分だけ ではなく,その成分が正しく効かなくてはいけない体の部位に運ばれて, そして必要な時間,そこにとどまる必要があります。うまく行かないと, 別の臓器で分解されたり,そこで効いたりして副作用を犯したり, また届いてもあっという間に排出されたり,そういうことが起こります。 ですので薬の開発というのは成分だけではなく,薬が体の中で どう運ばれて,どう留まるか?を制御する必要があります。そういう 研究分野を薬物動態学というらしいのですが,そういう話が たっぷり書いてました。
本によるとそもそも人間の体は薬の様な異物をなかなか吸収しない。 また口からとった薬は胃や腸で吸収されますが,胃や腸の中で 変質したり,水や脂で溶かされたりするようです。そして吸収された 薬はまずは肝臓に入りますが,肝臓は大抵の異物を分解するので, そこを潜り抜けて患部に届けるのは大変とか,あといろんな仕組みで 排出されるので,再吸収させるようにしたりとかさまざまな工夫がある 様です。そのほか注射とか吸引とか皮膚に貼ったりとかいろいろ工夫が あるようです。
この本では薬の成分の話はほとんど書いておらず,その体の中を 好ましい形で成分が動くような工夫がたくさん書いていて,実に驚きます。 薬とかいうのはいろいろ飲んでみて,効くものを探しているのか?と 思ってましたが,その薬が何故効くのかを実に細かく分析していて, そういうトライ&エラーというよりは,きちんと制御する形で 開発してるのか…と思いました。
薬を正しく飲まないと効かない理屈とかも書いているので,いい加減に 薬を飲むもんじゃないと思ったりもします。
内容は専門的ですが,かなり楽しく読めました。
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