ECMからのアルバムである。ノルウェーのトランペット奏者, ニルス・ペッター・モルブェル(と読むらしい)の新譜,二枚目の リーダ作になるらしい。ECMには何人が金管奏者がいる。有名なのは ケニーホイラーであるが,共通して言えるのは,あまり速いパッセージを 吹きまくるというよりは,ロングトーン中心で,繊細かつアンビエントな サウンドを奏法を主体とする。モルブェルもトランペット奏者としては同様のスタイルで, 更にピアニシモ主体の音であり,マイルスの様に音を カラーリングする様な吹き方をする。しかしこのアルバムの 聞き所は,トランペットだけではない。むしろアルバム全体の サウンドがテクノ&ドラムンベース的クラブシーン サウンドであることだ。ループや打ち込みを使いながら ECM的なサウンドに見事に仕上げていることであろう。
ここ数年クラブシーンではECMの旧譜が,サンプルのネタと して使われた。もともとアンビエント系なECMは, アンビエント系テクノとは相性がいい。 そこでは初期のECMでのアナログ的な, コラージュの作品がネタとして好んで使われたようだが, モルブェルは逆にクラブサウンドを取り入れ,逆に 北欧的ジャズサウンドに仕上げている。従って, クラブ的サウンドながらもジャズらしい演奏臭さももち得ている。
トランペットのサウンドのせいもあるが,新しい エレクトリックのジャズへの取り込み方といい, 一瞬マイルスと印象がだぶる部分がある。マイルスは ヒップホップとの融合を晩年目指したが,もし ヨーロッパのサウンドに近づけばこういう風に なっていたかも知れない。
全体的に北欧的サウンド,ヨーロッパ的な素朴な メロディというECMジャズが大きくクラブサウンドを 飲み込んだ様な作品。いい形でのジャズとテクノの 融合の例を聴いた気がする。
ただし,テクノということで,ほとんどの曲がオスロで 録音されたにも関わらず,ミックスやプロデュースが いつものECMのスタッフと若干異なる。そういう意味で, 最終的なサウンド的にはECMらしくない部分もある。 それだけがちょっと残念といえば残念である。