あまりに有名になり過ぎた一枚ではあるが,やはり名盤である。
まことに私事で恐縮だが,私がはじめて聴いたキースの演奏は これである。15年近く昔,TVのCMでこのアルバムの冒頭が使われた。 当時の私は単に美しいなぐらいの気持ちで,このアルバムの 演奏を聴こうと友人からテープを借りた気がする。確か最初に 聴いたときは寝た(笑)。
その後,インプロビゼーションということを理解するに従い, この演奏にはまっていく。今更説明するまでもないが,この演奏は 完全な即興演奏によるライブ録音である。従って演奏される瞬間まで そのメロディはこの世に存在しないものであり,アルバムは まさに音楽が作られる瞬間をとらえているのである。しかし, その場で作られているにしては,なんともすばらしい曲である。 メロディも美しいし,コードも絶妙だ。複数のラインが同時に 生成されていく。キースのピアノはとにかく横のラインが, すごい。メロディ,リフ,ベース等を追って聴いて欲しい。 複雑なラインが同時に動いていくのがわかるはずだ。
キースの場合,ソロコンサートは幾つかあるが,このアルバムは 一つの演奏の時間が20分程度であり,(彼にしては)コンパクトである。 従って,短い中に多くの展開があり,他のアルバムに比べ, わかりやすい。キースのインプロビゼーションの場合, 時間をかけ,生成していく演奏が時折聴かれるが,このアルバムは あまりそういう過程はない。そういう意味ではこのアルバムは キースのピアノインプロビゼーションを知るのに最も適した アルバムである。だから私はキースのアルバムで最初に勧めるのは これである:-)。
余談だが,聴くところによるとこの演奏をしている時の キースの体調は最悪だったらしい。体調が悪いくらいの方が, いい演奏が出来るという話があるが, やっぱりそうなのかも知れない。