音楽をレビューするというのは,その音楽を説明そるのではなく, その音楽を聴いている自分を伝えるというのがわたしの考え方です。 ですから,その音楽を説明できてる自信はありません。でも, 私はこの音楽を聴いてこういうことを考えました,というのを 伝えようと思ってます。とちょっと能書きを書かせていただきます(_o_)。
Fragileはギタートリオです。ギターとベースとドラムの三人。 もちろんCDは多重録音を使っているので,同時になって楽器が3つ というわけではないのですが,やはり三種類の楽器をつかってるという ことには変わりありません。その三種類の楽器をどう配置するか?という 視点でちょっと聴いてみました。水野氏自身による解説も 水野氏のページにありますのでご参照ください。
まぁ普通のレビューであれば,テクニックとかサウンドとかに ついて書くのでしょうが,Fragileは今まで何度かライブのレビューを してきてるし,超難しい曲をあいた口が塞がらないくらいのテクニックで 弾き倒すという点では,もう語り尽くされた感もありますし,いや…, もちろん,まずはそっちから印象に残るでしょうし,それぞれのメンバーの サウンドやテクニックも,もう表現できないくらいすごいので, 敢えて,バンド全体のサウンドのバランスでレビューしてみました。
プレーヤが自分の楽器のサウンドをきめるのには,自分のスタイルとか 好みとかいろいろあるのでしょうが,この「5」というFragileの 5枚目のアルバムを聴きますと,そのサウンドがバンドの中で 配置される「必然」のようなものを感じます。矢掘氏のエッジの 効いたカッティング,中音域に集まったディストーションのソロ, バッキング時には地をはうような重低音,ソロの時は中域に持ち上がる 水野氏のベース,硬質なタムと,楽器のすきまに染み込むような, クラッシュシンバル,そしてパルスを産み出すシンバルやスネアを たたくドラムの菅沼氏。これらのパレットに並んだ色を,実に 絶妙なバランスとタイミングで配置しています。その色合いは, 急激に変化するときもあれば,絶妙なバランスの状態で 空間を長く塗り潰すこともあります。
音色だけではありませんリズムも多彩に変化し,それが結果として バンドのサウンドになります。変拍子を使ってムチャクチ難しい ことをやっていましても,単なるギミックには感じず,サウンドの カラーの変化として,サウンドの重心の変化として,捕らえられます。
特に水野氏の曲はその重心と密度の変化が絶妙。高度なことをやってるのに, ゆったりした余裕を感じさせるのが不思議です。矢掘氏の曲は リズムのクリアさでカラーを表現,また展開の切り替えがすばらしい。 最後のCosmosという曲は既にライブではなくリミックスも駆使したような, 強力な色の塗り替え。聴いていて,目がチラチラします:-)。 菅沼氏の曲はシンプルで親しみのあるメロディに,高度なリズムで, リズムとメロディの色彩の違いがとても面白いです。
敢えて個々のプレイにはもうレビューするまでもなくすばらしい Fragileですが,今回はギタートリオというバンド形態での 一つの完成形の様なものを感じました。 これからどうなるんだろう?…と思いきやしばらくライブ活動は 休止するようです。これまでの4枚のアルバムでの蓄積の上に さんぜんと輝く今回のアルバム。一つの頂点を感じます。 もちろん,活動再開時には,更なる飛躍も予感できます。