新海監督の新作の映画「天気の子」を見た。
約2時間の作品,長いので特にストーリは書かない。ただ見て最 初に思ったのは,あぁすごいセカイ系の話だなぁ,ということ。 新海監督はセカイ系の話を書くという風に私は認識してるんだけ ど,これだけ有名になり,一般の人が見にくる映画でここまでセ カイ系の話を描けるのはすごいな,と思った。私は今回は小学生 の子供にせがまれて家族で見に行ったのだけど,彼はどう解釈し ただろう?
実は「君の名は。」を見に行った時は,ストーリをなるべく調べ ないで行ったので,隕石の話になった時に結構びっくりした。そ ういう意味では「君の名は。」は途中で全然違う話になったとい う印象がある。それに対し今回の天気の子は最初から最後まで一 貫して話が進んでおり,展開で衝撃を受けるようなことは(私は) なかった。
だったのだけど,映画を見た後にいくつか他人の感想を読んだり 聞いたりしていて,主人公の帆高の行動が批判されていることを 知った。私は自然だと思ったので,ちょっと驚いた。警察に追わ れて銃を撃ったりするあたりの話は,確かにやりすぎの感がある が,そもそも警察が疑いの段階の高校生をあそこまで執拗に追う ことがあるだろうか?というのと,最後銃を手放した帆高に老刑 事が銃を向けるのは,現実としてありえないと思ったので,完全 にフィクション,エンターテイメントとしての表現だと思った。 だからそこの帆高の行動には批難的な考えは浮かばなかった。
今回の話の最後のオチは,要は帆高は東京のために人柱になった 陽菜を,人柱から救い出し,そのせいで東京は水没した,という ことなんだろう。帆高を批難してる点としてその行動をあげてる 人もいた。でも私はそれで良いじゃないかと思った。だからこの 帆高の選択は,同意するし,まぁああいう選択が映画で描かれる ことは少ないけど,衝撃とも思わなかった。むしろ「正しい」と 思ったくらいだ。
この選択問題は,トロッコ問題のようでもあるなよなと思う。い わゆる人柱の問題でもある。責任論とか多数の利益の問題でもあ るのだろう。でも私は,普段から,人の命の重さは同等ではなく, 自分に近い人の方が大切であるという考えを持っている。だから 帆高が東京全体の運命より,大切な陽菜を選んだのは自然だと思っ ている。トロッコだって人の数より,大切な人が乗ってる方を助 けるよ,普通,と私は思うのである。逆に書くと,自分の大切な 人を守れない人を,自分の大切な人の命一つよりも,世界の救済 が大事だという人を私は信用できない。これは私が子供を持って から,さらに強くそう思うのようになった。
そもそも,今回陽菜が天に昇れば助かるというのは仮説でしかな い,確証はない。それに東京に雨が降っているのは陽菜が原因で もない。その状態で人は,誰かを人柱に差し出すものだろうか?。 それこそ生贄の思想で,太陽に心臓を捧げるのと変わらないよ。 もし彼女が原因でそういうことになっていれば,少し考えは変わ るのだけど,今回の場合は,あえてだろうけど,そういう描写は なかった。
今,ネットで意見を言われることが多くなり,匿名性が高まって いるため,個々の人間関係に即した意見は見えにくくなり,大衆 の集団としての意見が強くなっている。そこでは多数決や社会全 体の利益というのが優先されがちになる。行き過ぎた大衆の利益 は社会のために誰かに犠牲を強いることを躊躇しなくなる。今回, 新海監督はそういう風潮にアンチテーゼを示したかったのかな? という気はした。
2011年の震災以降,日本各地で地震や雨による災害が続いている こともあり,社会全体の苦しみに人々は共感するようになってき てるが,個々の人の幸せ(というより悲劇の回避すら)が見えにく くなっているように思う。
同様の設定だと昔だったら陽菜にあたる人が自ら生贄を志願し, 好きな人の前からさる,という自己犠牲を描くことも多かった。 でもあえてそれをして,それを美しい話としなかったのは,よかっ たのではないだろうか?
実は数年前のTVアニメ「ひそねとまそたん」も,ヒロインのひそ ねは生贄の儀をぶち壊しにする。でもあの時は結局世界に災害は 起きなかったんだよね。結果オーライだったのだけど,今回は世 界が変わったしまった,ということでもう一つ踏み込んだ内容に なっている。帆高に賛同するかは何かの踏み絵なんだろうか?。
そういう意味では須賀圭介が一人の命で東京が救えるなら良いと 言い,夏美に批難されたが,確かにそんなだから娘と暮らせない のだよ,とか思った。余計なお世話だが。
ストーリに関してというか,見た後に強く持った意見としてはこ んなところ。あとはいつも通り絵が綺麗だし空が綺麗。現在の東 京の風景が見事に切り取られるような,リアルな背景がすごいと 思った。でもこの背景,数年するともう現実じゃなくなるんだよ なぁ,東京は変化が早いから,そいうう意味で一瞬のような出来 事のようにも思えた。設定では2021年らしいが,あえてオリンピッ グ後にしたのだろう。でも21年にもうないものとかあるかもよ, と思う。
新海監督は,ずっとこういう映画を作っていくのだろうか?。良 い映画で,かけたお金がちゃんと質にもつながってると思うけど, 大衆向けのエンターテイメントとしては,ちょっと重いテーマだ よなぁ。まぁでも売れてるからこそこういう映画で挑戦してほし いとも思う。
Last modified: Jul. 30 2019
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