ジブリの宮崎監督の最新劇場アニメ。観てきました。興行成績もいいようですが, ネットで大人が書いている批評(特に子供と観たとかじゃなくて)を観ると, 「期待と違っていた」とか「 意味がわからない」とかそういう批評が 多くてちょっと驚きます。そうなんでしょうか?。わたしはこの映画は 純然たる子供向けの娯楽アニメを宮崎監督が目指して作ったものだと 受け取りました。そういう意味では非常にわかりやすかったです。 作画がとてもすばらしく引き込まれましたし,映画としては 良いアニメ映画だと思います。
ポニョは子供向けアニメでしょう。しかも娯楽であり。子供に教育を しようとかそういう想いもないから,非常に単純なストーリだし, たぶん宮崎監督がやりたかったのは,映画を観た子供が楽しい思いをすること だけであり,それ以上の含蓄はないと思います。 批評家はそこに何かメッセージを読み取ろうとして四苦八苦してるようだけど たぶん,そんなものはない。深読みするだけ無駄ではないでしょう。
ストーリ的には人魚姫のプロットをそのままなぞってますが,主人公を 少年少女にすることで恋愛的な要素はほとんどありません。 ポニョの造詣が不気味だという人も多いようですが,子供はあれくらい 不気味なものが結構好きだったりするように思います。実際に琴線に触れたかは わかりませんが,宮崎監督が子供に受けようとした感じはわかりました。 ストーリに謎や矛盾が多いこと。キャラの行動が教育的にどうよ?と 思われる点がいくつかあるところも,エンターテイメントとして子供が ワクワク,ドキドキする様に描こうとしてそうなっているだけだと思います。
と考えると,あまりこの映画について語ることはなく,単に童心に還り ハラハラドキドキ観れるかがポイントになります。
とはいえ,せっかくですから,大人の,しかもオタク的な思考で この映画を観て,少し語ってみるとします。
わたしとしては,宮崎監督が子供映画を作ろうとして苦悩しているのが 良く見えて,それが面白しろかったです。最近の宮崎監督がずっと 試行錯誤しているのは,おそらく萌えの排除ではないでしょうか。 ハイジもクラリスもラナも無邪気で無垢な女の子して描いたのに ファンには萌えの対象にさています。それを監督は良く思ってない 気がします。 もののけ姫で「戦闘美少女」を描ききった宮崎監督は,おそらくオタク受けのいい 萌アニメとして観られることを嫌がり,女性に性的な要素を廃することを 模索している気がします。そこで,「千と千尋」では, 主人公の女性を造形的にかわいくない様にあえて描きました。 それでも「湯女」と揶揄したり萌えたりするアニメファンは結構いました。 ではいっその事と,主人公の女性を老婆にしたのが「ハウル」なんでしょうけど, やっぱり男性ハウルとの心のつながりを描く段階で,やっぱり老婆であるところに 耐えられなかったのかこの段階で美少女にしてしまいました。 そこで今回は主人公を少年にしているし,ヒロインのポニョは化け物。 もしくは赤ん坊のような幼稚な存在。周りを固める人たちも老婆と お母さんくらい。保育園の女友達はあまり好意的に描かれてないし,出てくる 時間も短い。徹底的に萌えを避けようとしてるように見えます。
本作は,自分の思うように作品を受け取ってもらえないとか,作家として新しい表現を 探索するという意味で,宮崎監督の試みが伝わってくるし,良質なオリジナルな 子供アニメを子供に見せたいというそういう意気込みはものすごく感じる 作品で,わりと成功しているように思います。 でも,宮崎監督の癖,というか,おそらく作品を成立させようとして, 受ける部分を入れようとすると,従来の作品と類似部分がどうしても入ってきます。 今回のカーチェイスのシーンも過去の作品を連想し,受けた人が多いようです。 でもこういう批評を読んでいると,新しい表現を入れようとしても, 作品として成立させようとする段階でどうしても過去に成功した手法が 入ってしまうのだなぁという,商業作家としての性みたいのを感じました。
作家としては今まで誰も見たことがないのに,なるべく万人に受け入れられて, そして今回の作品の場合は,純粋に子供に喜んでもらいたい,そういうものを 目指したのでしょうけど,そのためには,どうしてもああいう逆にいびつな 女性キャラの配置にしなくてはいけなくなる所に,逆に優れた女性キャラクリエイター としての宮崎監督の苦悩が見え隠れするようで,そしてビックネームゆえに 期待され,それと戦っているのだなぁというのが見えて,ちょっと興味ぶかかった です。
というのは深読みすし過ぎなんですが,純粋に子供心になり楽しむのが この作品の正しい楽しみかただし,監督もそれを望んでいるのでしょう。