先日行ったイベント ルネッサンスジェネレーション2002では「時間」が テーマだったわけだが,その中でこの映画の紹介があった。 とういわけで,ちょっと期待して観ました。で,結論としては, 「期待以上。かなりおもしろい映画でした」 …とか書いて,期待してがっかりしたらすみません(^^;)。主観とか記憶に関わる話というのは元々わたしが興味ある分野で, この監督も言ってましたが,わたしも自分の記憶というのを あまり信用してないくちです。ですので,この手の話題を扱った 映画やマンガには好きな反面,結構点が辛かったりするんですが, それでもこの映画は,最後の結末が読めないという点で, 楽しめたのです。
仕掛けがある映画ですが,仕掛け自体はあらかじめタネを 明かされていても,楽しむのには関係ありません。つまり タネがわかっていても先が読めないところが,このタネの 凄いところでしょう。 わたしもイベントで仕掛け自体の説明は受けてましたし,実際 映画を見はじめて数分でその仕掛けは理解できます。
なので,仕掛けを書きますと,主人公は妻が強盗に殺されたときに, 殴られて記憶に障害を持っている男です。障害は過去の記憶は 持っているが,それ以来の記憶が定着しない,つまり短期記憶が 長期記憶にならないという障害です。10分経ってしまうと,それ以前の 事を忘れてしまうという障害です。話がそれますが,海馬がやられている 人ですね:-)。実際にそういう障害を持った人はいるそうです。 で,男は妻を殺した男を追っている。自分の障害を自覚しているので, ポラロイド写真やメモを使って犯人を追っているという人です。 本当に重要なことは入れ墨で体にいれている位です。
ですが,その写真やメモでは十分に過去のことがわかるはずもなく, 主人公は常に混乱しています。
この映画の凄いところは,この主人公の混乱を観客にもしてもらうために, 映画自体が,時間が逆に流れていることです。つまり今を映した後に, 数分前を映す,更にそのあとにその前…,という風に流れていきます。 したがって,見てる方も,例えば主人公がホテルで目が醒めたとしても, 本人と同様に,なぜそこに泊まっているのかがわかりません…という 感じです。
まぁ観てる方は,いちおう記憶が蓄積されているので,最初のシーン( 時間的には最後)に至る経緯が見てるうちにだんだんわかります。 そしてある時点で,この映画は終わります。
正直にいうと,こういう事になっているとは思いませんでした(^^;)。 この映画を観て早いうちに,結論を予想できる人は少ないと思います。 そういう意味で,仕掛け自体が非常に強固ということです。 で,結構ショッキングな結末でした。
以下。ネタバレなので白文字で書いておきます。
主人公は記憶がないながら自分のやり方自身には自信をもっているの ですが,結局それ自身が間違っているって事でしたね。 結局最初に殺した相手が,真犯人で無いばかりか,自分自身で 真犯人じゃない相手を犯人にしたてあげるように,してしまった…って 点もかなりダークです。
また本人が間違いないって言っていた,古い記憶でさえも, 実はいつのまにか書き変わっていたという点で,記憶なんて 全然あてにならない…,むしろ自分の望むように書き換えて しまっている, という結構怖い話だった気がします。
この映画で描かれているよりずっと前も違う人を追う時間が あったはずで,更にこのあとも,同じように主人公は新しい 復讐の対象を作り出す可能性もある。そういう意味じゃ, 無限の流転を感じさせる映画でもあります。結局 入れ墨の意味するものはほとんど描かれてませんが, そういう謎があるように見せかけて,本質はそういう場所じゃなかった という風な仕掛けもナイスでした。
というわけで,久しぶりに観ていて混乱するという意味で 多いに楽しめた映画ですが。
でも,絶賛しておきながらいうのもなんですが, CinemaScapeのレビューの中に黒沢映画の羅生門と同じ テーマだ…と言われ,たしかにそうだな…と思ってしまいました(^^;)。 まぁ,あちらも名作ですけど。