映画「この世界の片隅に」を観て

もう80代の後半に差し掛かる昭和一桁世代の私の母は,私が進学の ため実家を出る30年位前…だからまぁ昭和の終わりくらいの時期だ けど,それくらいでも,道を歩いていると道脇の草を「これ食べら れるよ」と抜いてもって帰ったりしてました。あと私が子供の頃は, 川の土手につくしやヨモギを摘みにいったのを覚えてます。

うちの親から,あまり戦争当時のことを話してもらったことは無い のだけど,焼夷弾が落ちてくる前にガソリンみたいのがばら撒かれ て,屋根にばたばたと降り注いだとか,グラマン(アメリカの戦闘 機)の機銃掃射があったとかそんな話は聞いてました。

この世界の片隅にというこの映画は,第二次大戦のさなか,広島か ら呉にお嫁に行った若い女性「すず」のその頃の日常を描いたもの です。ちょっと鈍いボーっとしたすずは,小さい頃は家の手伝いを し,見知らぬ若者に見初められて,呉にお嫁に行き,そこで姑たち といろんなやり取りがあり暮していく。そうこうして行くうちに, 巷での戦争は激化し,食べ物は手に入りにくくなり,時期に空襲が 始まる。呉は軍港や工場があり,激しい空襲がなんどもあり,そし てすずの実家のある広島には原爆が落ちる。ただ描かれるのはあく までもすずの日常で,すずはそういう状況の変化をどうすることも 出来ず,ただ受けいれ,毎日を必死に暮すしかない。その日常の中 で楽しいことや喜びを一つ一つ見つけ暮していくという話です。

マンガの原作が評判がいいのは知ってましたが,読んでませんでし た。漫画風の絵柄ですが,実に丁寧に作画され,多くの人たちの動 きや風景などが実に細やかに描かれ,マンガ絵ですがリアリティの ある情景を描いてました。

で,映画を見ていて,冒頭に書いた,私の母がやっていたこと,そ して話していたことを思い出していました。こういう生活だったの だろうか,と。

映画の評判がいいので,なんどかNHKで取り上げられてますが,映 画をみた若い人たちが,当時の人たちと自分たちの暮しがつながっ ていると感じたみたいなことを行ってました。私は自分の親から聞 いていた世界を感じたので,改めて映画を見て,世界がつながった というのは無いのでが,戦争世代と接したことがある人も減る中, そういう風に思う人もいるんだろうし,そういうことも必要なんだ ろうなぁと思いました。私の母親が昭和後期の豊かな時代になって も道の食べられる草をとるのは,別にのどかな愛らしい趣味ではなく, 戦時中の満足に食べられなかった時代についてしまった習慣なんだ ろうと思います。そのせいか,うちの父はどちらかというと,そう いう母の行動を当時を思い出すと嫌っていたように思います。でも, 映画のすずをみて思いましたが,当時の人は,その貧乏くさい習慣 をそれはそれなりに日々の喜びとしてやっていたのかもしれません。 映画を見てそう感じました。

ところで,ネットでこの映画を反戦映画として捕らえている人が案 外多いようですが,私個人はあまりそう捕らえてません。たしかに 戦争が我々の日常にもたらすもの,もたらしたものを描いてます。 でも,この映画を見て改めて戦争の悲惨さを感じるほど,今の日本 人は戦争の悲惨さを忘れてるんだろうか?とむしろ思うのです。NHK の朝ドラを見てると,ほぼ必ず戦時中の話があり,そこで一般の人 たちが受けた悲惨な体験は苦しさは再三描かれます。この映画で新 たにそう思う人は,そういうのをみてきてないのだろうかと思いま す。ただ一方で個人的には朝ドラの戦争の悲惨さの描き方が,少し 一辺倒化してきて,しかもみていて辛いからか短くなっている気が します。そういう意味では,この映画では,戦争が日常に起こした ことを,あくまで日常としてしっかりと描いたと意味で新しいと思 います。

私がこの映画を反戦映画と捕らえないのは,そもそも日本に戦争に 賛成している人とかいるの?戦争やりたいと声を大にして言ってる 人とか見たことないんだけど,と思うからです。ただ戦争にリアリ ティを感じてない人は増えているのだとおもいます。だからこの映 画でそのリアリティを感じるのは大事なことでしょう。

ただ総じて言うと,人生は悲喜こもごもであり,いろんな悲劇が突 如としてやってくる。戦争も起きれば大きなことだけど,悲劇はそ れだけじゃないですよね。そして,その中で人は翻弄されつつも, 多くの人は日常を精一杯生きている。どんなに苦しい時代でも日常 の喜びは存在する,そういうことを感じた映画でした。

以下,つらつらと思ったこと。
戦時下ものんびりと暮していたすずだけど,空襲の爆発で,一緒に いた姪を亡くし自分の右手を失う運命を背負わされたことはショッ クだと思いました。でも話としてやっぱりああいうことを描かない といけないのだろうなぁ,とも思いました。
すずが広島で孤児を拾ってくる話。私の親の世代の頃は,そういう の結構あったみたいです。あと私の親も兄弟を幼少の頃に亡くして いたりとかで,とにかく子供は頻繁亡くなっていた時代なんだよ なぁ,と思いました。
人為的な行為である戦争と,災害を並べるのは間違いなんだろうけ ど,市井の人にとっては,空襲も災害のようであるなぁと,ちょっ と感じた。ただたいていの災害は一度で終わるが,何度も何度も繰 り返す空襲はもっと大変なものであることは容易に想像できます。


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Last modified: Wed Jan 18 09:19:29 JST 2017
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