ビルエバンスの映画が映画館でやっていると知ったので,ふらり と見に行った。よく考えると自分は,チャーリーパーカーの伝記 映画「バード」は,マイルスが俳優として出演した「ディンゴ」 また,ジャズミュージシャンが多く俳優として参加した「ラウン ドミッドナイト」も映画館で見ており,ジャズ映画は映画館で見 る主義ということをふと思い出し(笑),せっかくだからと見に行っ た。
ビルエバンスは,知らない人のために書くと,1950年代後半から 活躍したジャズピアニストで,とても有名な人である。モダンジャ ズ最大のヒットアルバムであるマイルスの「カインドオブブルー」 に参加してるというのもあるし1960年前後に出した自身のピアノ トリオはジャズのピアノトリオに革新を起こしたと高く評価され いてる。なにより現在のジャズピアニストには彼のフォロアーが たくさんおり,我々がジャズピアノとしてイメージするスタイル にはビルエヴァンスが作り出したものも多い。モダンジャズであ りながら,綺麗で静かなサウンドを多用するエヴァンスのスタイ ルは,おしゃれなジャズのイメージとしてもあっており,以前は 女性に進めるジャズとして一番に上がっていたくらいだ(笑)。
さて,本映画は先に挙げたミュージシャンの生涯を誰かが演じる とか,ミュージシャンが俳優として出演する映画ではなく,純然 たるドキュメンタリーであった。エヴァンスの映像や音声,演奏 は出てくるが故人であるためすべて過去の記録である。その他, エヴァンスに関わった多くのシュージシャンや関係者が証言者と して出てきて,この映画のためにしゃべっている。その出てくる ミュージシャンがこれまた有名かつ偉大なミュージシャンばかり なのが,この映画の一つの見どころであり,その偉大なミュージ シャンにとってもエヴァンスは偉大かつ刺激的な人だったという ことを示していた。
おそらくこの映画でもっともよく映りしゃべっていたのはドラマー のポール・モチアンで彼はビルエヴァンスが有名になる前から一 緒に活動をしており,全盛期をささせた人である。その後はエヴァ ンスを離れ,キースジャレットと共演したり,自分のプロジェク トで素晴らしい作品をたくさん発表し2011年に亡くなっているが, その前に収録したのだろう。ポール・モチアンは私がもっとも好 きなドラマーの一人で,何枚もCDを持っている。確か一度だけラ イブを見たことがある。演奏もユニークなのだけど,テクニック で押すというよりは音楽性が素晴らしい。そして人格者としても 知られていた。今回の他の人の証言の中にもモチアンの人格の良 さを述べたものがあったりして,そこの確証も取れたが,とにか くモチアンがエヴァンスとの活動を活き活きと楽しそうに話して いるのが印象深かった。
さて,映画だが,基本的にはエヴァンスの人生を時間を追って紹 介していた。改めて知ったが,エヴァンスはデビュー時からとに かくうまいピアニストとして評判だったらしい。1950年代という とモダンジャズはまだ黒人が主体であり,クラシックの教育を受 けたピアニストは少なかったのかもしれない。クラシックの曲も 弾きこなせるほど訓練を受けたエヴァンスがジャズに飛び込み, そこでジャズピアノの世界を広げたというのは,当時のジャズ事 情からするとかなりの革新だったと想像できる。それまでグルー ブ主体でグイグイやっていたジャズに叙情的で美しく耽美なスタ イルを出してきたというのではエヴァンスがパイオニアであり, 今回映画で改めて実感したが,当時はピアノは伴奏楽器と認識さ れていたのをそうでないようにしたのも彼らしい。まぁモンクと かバドパウエルのようなピアニストもいたはずだけど。
先に書いた1960年前後のピアノトリオの演奏は,ジャズピアノト リオのインタープレイという新しい演奏を示し,それによりエヴァ ンスは確固たる地位を確立したのだけど,私の個人的な印象だと, そこからの革新は止まってしまったように思う。そういう意味で, 1980年まで生きていたのだけど,私は晩年の演奏は聞いたことが なかった。ただ今回映画の中でいくつかその演奏を聴き,演奏自 体は大変素晴らしいと思ったが,やはり60年代のスタイルを継承 してるのだなぁとは思った。まぁそれはそれで一つのやり方では あるのだけど。
エヴァンスが60年代のスタイルで止まってしまったのは,やはり 60年のトリオのスコットラフェロが死んでしまって,そこで止まっ てしまったから,なのか,それとも薬物依存が強かったエヴァン スには,もう,そういう気力がなかったのか,そもそも革新を望 んでなかったのかよくわからない。でもエヴァンスほどのスタイ ルを作り出した人であれば,そのスタイルを20年間続けていても, それは素晴らしいことだと思うし,実際当時の共演者の証言だと エヴァンスは偉大な人だというのが,よく伝わってきた。この辺 は私がエヴァンスの生きてる時代にジャズを聴きはじえたらそう 思っただろうなぁと思う。
まあそういうわけで,エヴァンスについていろいろ認識を得て勉 強になった。彼に関わった多くのミュージシャンのインタビュー を見れたのはお得な気分だったというのが感想。基本的には見て よかったと思っている。
あとこの映画,とにかく演奏シーンを細かく切って,たくさんの 演奏をちょっとずつ見せるという手法だったのだけど,この映画 で使われた演奏のフルバージョンがCDで出ると聞いて,そういう 目的だったのかと思った(笑)。まぁディスクユニオンも提供に入っ ていたし。そしてエンドロールも無音。ちゃんと一曲まるまる聞 かせてよと思う枯渇感を味わせるエンディングだった(笑)。
まぁ私も晩年の演奏のCDを1枚くらい買おうかな?とか思いました よ。
Last modified: Jun. 21 2019
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