田中宇さんのコラムに 米ボーイング社の転落の様子を書かれたものがあって興味深く読みました。
わたしは5月18日の日記にこのリンク先で音楽CDの輸入権,出版の貸与権, ファイル交換の取り締まりを結び付けている事に関して,「後日書きます」と 書いたので,ここで書きたいと思います。
わたしはこれらの取締強化というか産業側の権力強化というのは, コンテンツ産業のみならず,現在の株社会において,株制度の 悪い面が前面に出てしまっている状況になっているのが原因と 思ってます。いろんな原因で会社の収益が悪化しています。特に CDの売り上げ低下に関しては,若者が一番お金を使うところが 携帯電話になってしまって,それ以外が極端に減っている。 またTVやラジオやその他メディアが多様化多局化し, 効率のいいメディア配信(一局や一番組に大きくキャンペーンを かけるとか)が不可能になった。インターネットの発達で人々の受け取る 情報が雑草化し企業側でコントロールしにくくなった,というのが わたしは一番の原因だと思ってます。もちろん不正コピーや発展途上国からの 安いCDの還流で売り上げが下がってる面が零とは言いませんが, 音楽を聴いている時間自体が減ってるのだと思います。
さて,これに関してはコンテンツの問題かも知れませんが, それ以前になぜこういう風に無理やり制度をいじって, 市場を滅びの道に向かう様なマネまでして,短期的に 売り上げを上げようとするのか?。それは企業の経営陣が 雇われ社長であり,自分の任期だけ株価を上げればいいという 考えで動いているからでしょう。この動きはここ10年程で 非常に強く感じられるので,日本特有の現象か?と思ってましたが, 最初に挙げたリンクをみると,アメリカでさらに航空機製造業界でも ここ数年で起きてる現象みたいなので,もしかすると最近強くなったのかも しれません。もっとも日本は15年前,アメリカは数年前にバブルを やってますから,バブルを経験するとそういう指向の経営層が 登場するのかも知れません。
わたしも会社の管理職をやるようになって,経営層の人の話を 聴くようになって思うのは,彼らはひどく株主の目を気にしているということです。 もちろん株主は一般の人も多く,特定の誰かというわけでは ありません。つまりここで言う株主は株価であり,株価に影響する 何かだったりします。一番大きいのが収支決算でしょうし,それ以外にも 株価に影響するような風聞も大きく気にしてます。
会社というのは上の人の目を気にしないとうまく立ち回れませんが, 一番上の人は今度は社会を気にするわけで,なかなかどこまで行っても 好きにやれないのだな…と思ったりします:-p。
株主はとにかく株価が上がれば嬉しいのです。もちろん配当が チャンと出ると嬉しい…というのが正常な経営のやり方だと 思いますが,証券取引が盛んに行われる現在においては,配当より 株価自体の方が重要になります。従って配当が零でも株価が 上昇している事が望まれるのです。最近のいろんな上場企業の 在り方をみていると,例えば顧客数を集めることだけに一生懸命だったり, ちゃんと動くかどうかわからないサービスの開始を発表したり, つまり机上のデータの誇示が盛んであり,株価を下げない,上げることに 一生懸命の様に見えます。そして一番の問題が,そういう 役員は大企業になればなるほど,短期の雇われ役員であり, 彼らが任期中に株価が上がれば,あとはどうなってもいい…,と考えていると 取れるような行動をやってるように見える事が多々あるのです。 いやわたし素人なので間違ってるかも知れませんが…。
一方昔はどうだったのか?というと,投資家自身がここまで株取引で 利益を得ることに必死じゃなく,配当の方が目当てだったのではないでしょうか?。 それより最初にボーイングの話を読んで思うのは,とにかく以前は 株式会社といっても創業者が長く役員(社長や会長)をやっていて, 長期的に会社が持続する…つまり市場が長く継続することを常に 考えていた気がします。今でもITなど新興の業界は創業者が 社長をやっていたりして,そういうところは市場の形成自体も 考慮しているように見えますが,それでも証券市場自体が, 短期的な株売買で利潤を得ることに躍起になっていて,そのせいで 経営層は産業自身が荒れるような恐れがある施策をしてまでも 株価を上げようとしているようにも見えます。 バブルで大損をした銀行が,なんとかあの時の損を減らそうと 躍起にいろいろやってるのも原因の一つの気がします。
そういう意味ではレコードや出版の様な古いコンテンツ産業は, 経営層もいろんなところからやってきた雇われ経営者でしょう。 そういう状況で彼らがコンテンツ産業には著作権という便利な 利権があることに気づき,現在躍起になって「今のうち取れるだけ 取ろう」という事をやっているように見えます。アメリカはもっと 前に権利ビジネスには目をつけてましたが…。
そういう意味で言うと現在の株式社会というのは株式の 悪いところが非常にたくさん出てしまっている状態な気がします。 情報社会も発達して情報面でもまた売買面でも株価が変動する スピードが速くなる方向に向かっている気がします。そして こんなに株が乱高下したら,まともに会社経営などやっていけない わけです。
株式会社はヨーロッパ社会がアジアへ進出する際に資金をあつめる 方法として考案されたものだと聞いてます。それはある意味王権が 経済力を弱めた結果であり,併せて民間の力が強くなるというスパイラルに なり結果として第一次世界大戦で,ヨーロッパの王権社会は ほとんど壊滅されました。ある意味株式社会は自由経済社会の 根幹でもあるわけです。
しかし数百年それをやってきて社会が徐々に変わってきてしまって, もしかすると妙なところに落ち込んでいるのかも知れない…と 思ったりもします。それは何がいけないのかは良くわかりません。 もしかしたら植民地政策時代に作られた制度なので,発展途上国の レベルが上がってくるとダメな制度なのかも知れないし,自由貿易と うまく噛み合わない制度なのかも知れません。一方の近代経済を 試みた共産主義は結果的に崩壊しました。ですが,自由経済と 文化の発達というものが両立するかどうかは良くわからないし, 今後この経済がうまく回っていくのかは,良くわからないと 最近良く思います。
だからどうしたらいい…っていうのは全くもって思い浮かばないのですが。 ただ最近のコンテンツ絡みの悪政は結果的に悪影響を 及ぼすとわたしは予想しているし,そうなのに彼ら(経営者や官僚)が そこまでやろうとする,原動力は株式社会の負の側面が現在顕在化 しているせいではないかとおもうわけです。
以下余談ですが,王権が強く貴族が富を独占していた時代は, 貧しい人がたくさんいて,大変な時代だったとは思いますが, 芸術家はパトロンの目だけを気にして作品をつくっておけば よかったので,結果的に使い捨てじゃない作品がたくさん出たのは 皮肉的だと思います。芸術は自由経済とは相性がわるいのだろうか?…と か思ったりもすることもあります。さて…。