音楽に限った話ではないが,芸術の類いのものに鑑賞者はある種の 新鮮味を期待する。ところが人間は全くイメージできないものを いきなり見せられても,ピンと来ないので,通常は現在存在するものを さらに発展させたものが,受け入れられやすい。あまり斬新すぎると 鑑賞者がついてこれない…というものである。まぁ後年「早すぎた」と 評価されることもあるが…。
特に若い人は自分の肉体の拡張とともに,まるで自身の可能性を 探るがごとく新しいものを求める。音楽に関していうと,自分の昔の記憶, または少し上の世代音楽とは異なった音楽を求める。しかし,簡単に 新しいスタイルが生まれるわけではないので,得てしてスタイルは 周期的に変化する,というのがここしばらくの傾向として 見える。たとえば,現在流行っている音楽の中には70年代の テイストを持ったものが多く,どちらが元かはわからないが,ファッションも フラワームーブメントの頃のものが若い人の間で 好まれたりしている。
これは,若干失望を伴う考察をすると,世界中に未知の地がなくなり, また技術の発展が頭打ちになったために,全く新しいイメージが生まれず, それにより新しい文化が生まれなくなって,仕方なく懐古現象が起きている ともいえる。しかし,若い人にとっては古いものも未知のものなので, 彼らにとっては新鮮なものなのであろう。
そういう流れの中で,リズムに関しては一貫して高速化 しているように感じる。たとえば,上に乗っているギター等が 昔のロックのスタイルで,一見8ビートの音楽であっても,ドラムを良く聴くと しっかり32ビートで聴こえたりすることが多い。バラードであっても, 昔はゆったりとしたビートであっても,今は,妙に細かい乗りが入った リズムでることが多い。
これは,現代の人がリズムマシン等で一旦高度に細分化された リズムを一旦聴いてしまったため,現代人の「普通」と感じる リズムの速度が昔より高速化されているのだろう。 人は触れたことがないものを想像するのが難しいので,たとえば 昔,電子楽器とかがなかった時代の人が,現在の音楽のように 高度に圧縮されたリズムを,例えばバラードの上に載せたらどうなるか? など想像できなかったのだろう。おそらく当時の人はバラードに 32ビートを載せたら,せわしくてバラードになるはずない, などと思っていたかも知れない。
しかし一旦そういうリズム…,いやもっとも速いリズムを聴いてしまうと, それを合わせるとどうなるか?がイメージできるようになる。そして 「意外に合う」等と言って,そういう音楽が生まれていくではないか?。 少なくとも,やはり人が求める音楽のリズムの新鮮味に関しては 高速化(細分化)という単一の方向性が感じられる。 単一の方向性であれば,現在のニュートラルに対して, 常に高速である必要があり,そうやって時代が進む度に, ニュートラルが変化しているのではないだろうか?。 現在優雅に聴こえる,クラシックのワルツも当時の人には ひどく刺激的なビートだったはずだし,スイングや,4ビートも 当時の人には高速なリズムだったに違いない。少なくとも, 今流行っている70年代風のサウンドを聴いても,リズムだけは しっかり今風だったりするのでとても興味深い。
そういう意味でいうと,新しいスタイルを作り上げていくには, もっと極端な何かに,一旦触れる必要があるのかも知れない。 そして,それを既存のものと組み合わせて,新しいものが生まれてくるような 気がする。その極端なものは,ある意味マニアックで,そして 時代の踏み台になるものかの知れないが,礎として 必要なものなのだろう。 昔はそれが民族音楽だったり,電子楽器だったりするのだろうが, 今後,何がそうなるかは良くわからない。
もちろん既存のものでも,大胆に,新しいスタイルをつくることが 出来る。イメージにないものをつくるのは難しいが,一旦作り上げると, それを以前のスタイルに適応するだけでも新しいものに なるのではないか?…。そういう気がする。
芸術に限った話ではない。技術が科学もそういう事があるのかも知れない。 新しいイメージを作り出すのは難しい。しかし,人のニュートラルを 移動させるほどのものを作り出す,そういうものが何かを 産み出す母になるのかも知れない。