音響機器にとってのいい音とは?

最初に断っておくが,基本的に私のWebページに書いている文章は 仕事や私の立場とは関係ない。私のページにリンクしていただいている 人の紹介文を読むと「音響の研究者」とか「音の専門家」という 紹介があるが,そんなにたいしたものではない。研究者とか いうと学会で定説になっているものしか書けない気がするので, むしろそういうものを取り除いて,直感のようなもので書きたいのだ。

従って,今回書く話も,根拠となるようなデータや論理は無い, ただの意見である。

さて,本題に入る。 CDの出現によるオーディオの品質の規格化は,オーディオマニアの 工夫により音質を向上するという余地を著しく減らし,ユーザから オーディオの品質へのこだわりを無くさせた。そうやって10年あまり経ち, ディジタルでありながら,音楽圧縮やパソコン(PC)での音楽再生, 携帯電話の音声・音楽品質等,ディジタルでありながら,悪い音質 がいつのまにか,ユーザの周りに蔓延するようになった。 そしてかってのオーディオメーカ以外の手による音響機器の設計・製造に より,ろくに音質の調整もせずに音響機器のような顔をして売られている 音響機器?(特にPC周辺機器)がかなりある。

しかし一方で,音声や音楽の圧縮技術は,音質は劣化しているが 一般のユーザにとっては問題ないという品質という観点で評価している。 つまり現状ある携帯電話の音質や,音楽圧縮(例えばMD)とかの音質は ユーザにとっては問題ないという結論になっているのである。 なるほど,一握りのオーディオマニアはともかく,一般のユーザに とっては,音楽を聴くときや,電話をするときの音質などさほど問題 ではないのかも知れない:-p。

ところで,私は今までのいろんな経験から,オーディオマニアの 人,音楽を演奏する人,プロのレコーディングエンジニア, ミュージシャン,ハードウェアメーカ,そして一般のユーザの 人の意見を少しずつではあるが,聞く機会があったりした。 そこから感じることは,立場が違えば,音へのこだわり, そしてこだわる場所が異なるという事である。レコーディング エンジニアがこだわる音響機器にとってのいい音と,オーディオ マニアにとってのいい音は異なる。一般ユーザ等はもっと異なる, というかあまり気にしない(^^;)。ハードメーカはあまり詳しくは 聞いたことがないが,また違う。従って,みんなにとってのいい音 というのが本当にあるのかどうかは疑問なのである。

しかしこれらの立場の違いを埋めるべくして,物理的な音響特性がある。 一般に音響機器の特性としては,周波数特性(f特)とS/N比,歪み率 等が用いられる。これらはJIS等で測定法が規定されているが, 実は現状のように圧縮技術を評価するには必ずしも適切とは言えない。 何故なら圧縮技術は入ってくる音によって上記の音響特性が変化するため, ノイズや正弦波で出たデータが聴感と一致するとは限らないのである。 また,これはアナログ時代からあった話だが,業務用のオーディオは なぜか海外の製品の方が評判がいい。物理特性で弱点が少ない 日本の製品より,海外(西洋)の製品が,プロのエンジニアには 評判が良かったりするのだ。

この辺の理由がどこにあるのかは,ハードメーカは 良く考えるべきかもしれない。私のザッとした印象では, 海外のメーカの方が実際に使うエンジニアの感性で 設計を行っているという感じがする。例えば業務用AD/DAで もっとも評価が高いApogeeは,かの有名なレコーディング エンジニア,ボブ・クリアマウンテン氏を製品ディレクターとして 起用している。まぁ日本は海外で有名な製品をついつい 使ってしまうという傾向がなきにしもあらずであるが(^^;), やはりこういう実際のユーザをスタッフに加えるか,設計者 自身がクリエータとしての評価をできないと,いい製品を つくることは不可能なのかも知れない。

さて実は上では皮肉を書いたが,実は音楽圧縮や携帯電話の 音というのは普通のユーザでも違いがわかるほどの音質である。 本当に気にならないのであろうか?。一部には問題とする 気運も感じるのであるが…。 確かに圧縮というのは限られた情報量の中での品質の勝負である。 完璧なもの(非圧縮と遜色のないもの)をつくるのは難しいのかも知れない。 しかし,音質の評価をしながら設計をするのは,メーカの 責任である。数十年前から決まっている古い物理特性だけで, 評価して,「いい音のはずである」なんて言っていても, 誰もいい音なんて思ってくれはしない。PCの周辺機器としての オーディオ機器を出しているメーカも,いい加減SNやf特だけで, 音質を保証できるか?と思ったら大間違いだ。

数値で表現できるものはある意味誰でも評価・表現できるものである。 誰でも表現できる違いだけで説明できるほど,いい音というものは 簡単なものではない。そんなに簡単だったら, 世の中いい音だらけである。 オーディオがマニアのものでなくなり,安価で規格化された 音質を提供するようになり,オーディオメーカは小さくなるか, その部門自体を無くしたりして,オーディオの専門家を 育てる事を止めたような感じがある。従って自分の耳で 音質を評価できる専門家が,物凄く減っているのではないか?。 ましていわんや,クリエータ的感性で評価できる人が, 果たしているのだろうか?。 最近の素人でもわかる品質の悪いディジタル機器をつくる人達も, その辺を考えてみると,限られた情報量の中で, よりいいものをつくれるかも知れない,と思うのだが…。


一人言のページへ戻る


00 May. 28


(C) 2000 TARO. All right reserved