オーディオは果たして復活するのか?

オーディオの盛衰

前回に続き今回もレポートが主で恐縮だが,今日オーディオエキスポに 行ってきたので,そこで感じたことと簡単なレポートを書く。

私は趣味と仕事の両方の目的でここ7,8年,オーディオフェアや, プロオーディオ機器展に行っている。オーディオフェアは去年から オーディオエキスポと名前を変え,開催地も池袋から,有明に移った。 とはいえ,ここ数年の流れからいうと,オーディオは衰退する一方で あったのである。オーディオファンは年々減り,かっては若い自作マニアの ターゲットであったオーディオは全くそういう対象として見られなくなった。 新しいハイエンドの規格がいくつか提唱されていたが,それでもほんの 一部のマニアの心を燻るだけであり,一般の若い人の心を捕らえることは 難しいかと思われていたのである。

趣味に必要な可能性

オーディオが趣味としての魅力を無くしたのには理由がある。 それはCDである。CDはオーディオの品質を著しく向上させたが, 皮肉にもそれは苦労しなくてもいい音質が得られるようにした ことにより逆に苦労しても平均以上の音質を得られないようにした とも言えるのである。これでは工夫をすることが全くの意味を 成さなくなり,ユーザは完全な受け身になってしまう。

世の中には「自作マニア」という人達がいる。自分達でハードウェアを つくり,趣味をする。ある意味,手段が目的になっている人達である。 かってはアマチュア無線がその対象であった。アンテナやチューナを つくることにより,別に無線で会話楽しむのではなく,「いかにいい性能の 無線機をつくるか」に熱中した。次はオーディオである。 LPプレーヤの下にコンクリートはひいたり,スピーカのセッティングや テープのレベルなどを工夫して,人よりいい音をつくることに熱中する。 ある意味,かかっている音楽どうでもいいのかも知れない。

しかしCD(という規格)がでると,それらの工夫は全く意味をなさなくなる。 一部,CDの縁を黒く塗ると良くなる,とかいうデマというか, まぁそういう話が出るが,やぱり誰にでもわかるほどの差は 出ない。そうなると工夫の意味がなくなり,そういうマニアは オーディオに情熱を燃やさなくなる。そういうマニアが 今何をしているかというと,パソコンである。パソコンは, 自分でハードを組んだり,フリーソフトを選んだりすることにより, 人とは違うシステムを,独自に組むことができるのである。 彼らは何かのために高性能のシステムを組むわけではない。 システムを組むことが目的なのである。

こういう自作マニアがどれくらいの数がいて,どれくらいの マーケットなのかは良くわからない。オーディオにしても パソコンにしても,ただあるものを選ぶ純粋な ユーザの方が数が多いはずだからである。しかし確実なのは こういう自作マニアのターゲットになってる分野の方が, 結果的に商品開発サイクルが短くなり,しかも高価な製品が 次々と生まれ,結果的にマーケットは大きくなっている。

入り乱れる各種オーディオ

というわけで,一旦死んだと思われていたオーディオであるが, 今回のエキスポでは意外な展開を示していたのである。

前回のエキスポでもSACDやDVD-Audioの様な新しいハイエンドの オーディオは発表されており,一見華やかなようであった。 しかしそれは,マニアですら良くわからないほど微細な高品質さであり, 果たして,その新技術が新しいユーザ層をつかむとは思えなかったのである。 ところが今回はそれに加えて,目玉はシリコンオーディオと音楽配信である。 ソニー,ケンウッド,パイオニア,ビクター,松下等がシリコンオーディオや 音楽配信のコンセプトを展示している。いくつかは,発売予定がある。

これらは決して,高品質オーディオではない。むしろ品質的には CDやLPからですら後退している。しかし,パソコン, さらにインターネットと高い親和性を示し,それゆえに新しいユーザ層を 作り出しているのである。まるっきり新しい仕様であるから, 方式もまとまっておらず,ユーザも何を選んでいいのかわからない。 実はこういうのは,かえってユーザの遊び心を刺激するのである。 どういう方式を選ぶか?,どういうシステムを組むか?,使い方は?, 良くわからないだけに,そこには工夫の余地を感じるのである。

確かにMP3の様な音楽圧縮方式には,ハードウェアの工夫による 効率アップや,エンコードソフトの選択による品質のアップ等の ユーザによる選択の余地が残されているのである。

さらに最近はクラブの隆盛によるLPの復活などもある。 これらは別に高品質なわけではないが,いままでCDしか選べなかった ユーザからすると,遥かに選択の余地が多く,それゆえマニア心を 燻るのである。

混沌が市場の隆盛を産み出す

結果として今年のオーディオフェアは,意外なことに マニア以外の来場者が多く,オーディオファン層が拡がっていることを うかがわせた。CDという規格が行き詰まり,SACDやDVD-Audioの 様なハイエンド,シリコンオーディオのようなパソコンからの あたらしいオーディオ, クラブを原因とするLPの再ブームや低音指向のカーオーディオ。 これらのせいでもしかしたらオーディオは再燃しているのかも知れない。 混沌とした規格乱立の中,ユーザは何を選んでいいのかわからない。 しかしわかってしまったとき,それらは単なる家電になり そこに趣味の領域はなくなってしまう。オーディオは 一旦趣味から家電になってしまった。しかし再び趣味へなる可能性を 秘めてきた。そこには市場としての可能性,技術としての可能性, そして楽しみとしての可能性があるといえる。

今回の目玉

シリコンオーディオ
ソニーのメモリースティックウォークマン
ケンウッドのSDカード対応プレーヤ,コーデックはMP3らしい。 一応なぜかメモリースティックも展示してあった。 あと,携帯電話の筐体のモックも展示してあった。
パイオニアはソニーのメモリースティックウォークマンの OEM商品に加え,独自のデザインのモックも展示していた
松下は,SD対応の携帯プレーヤを展示。コーデックは 教えてくれなかった。
ビクターはウェイブレスラジオの展示。TwinVQを使ってるらしい。
SACD, DVD-Audio
ハイエンドの両規格は,デモを含めて盛んに頑張る。 DVD-Audioは前回は商品がなかったが,今回は新たに 商品化されたためか,SACDより多少元気であった。
LP
クラブのせいかアナログが見直されている。パイオニアが 1万円代のプレーヤを発売,デンオンが自社の製品を4,5品ほど 展示していた。
MD,およびパソコン関係
ここ数年の主役であるMDであるが,パソコンや 電子手帳(ザウルス等)でMDを編集できるというものが 展示されいた。その他にもiLinkなど,パソコンとオーディオを つなごうという試みは,ここ2,3年の動きでもある。
と今回のレポートはこんな感じである。


一人言のページへ戻る


99 Nov. 21st


(C) 1999 TARO. All right reserved