ダニエル・キースの有名な作品。映画にもなっている。 今度日本のテレビでもドラマ化するらしいが,読み始めた 時点ではそのことは知らなかった。ところで,私にこの小説の事を教えてくれたのは誰だろう?。 何でこの本を読もうと思ったのかが,全く思い出せません(^^;)。 読んで,真っ先に思ったのは,Webでよく見かける日記形式の小説は この本のスタイルを踏襲したものだったのか,しかもよく精神的に 壊れていくのを文体で表すが,それをかなり古くからやっていたのが, この本だったのか,ということ。
いずれにせよ,この本が1960年頃,40年前にかかれたと 思うとかなり驚く。この小説に出てくる設定は,どれ一つとっても, 今の時代にあわない物はない。社会状況も科学技術も。
これはSFとしてはすごいことだと思う。SFはどうしても,科学技術の 変化によって,未来の話であれどこか古くさくなってしまう物が ほとんどだから。脳を手術して知能を上げるという考え方は,ロボトミーが盛んだった 当時のアメリカを反映しているようではあるが,脳科学がさかんに 議論されている,現在でも十分新しい話題である。 そういう意味でかなりすごい作品といえる。
特にこの作品の中に込められている,「知能指数的に賢く なることが,必ずしも幸せなことではない」という思想は, 私が普段言っていることで,なかなか共感を得られない 事でもあるので,私的にも強い共感を感じた。 もっとも,知能障害者がそのままで幸せと言うつもりは ないが。物語的には,いろいろ疑問が残る部分もあるのだが, 変わりゆく自分を,スピード感たっぷりに読者に 実感させるということにかなり成功している作品だろう。 いろいろ考えさせられる作品だ。唯一,主人公が知能を 減退させている場面での言動は,おそらく私が仮にそうなった 場合とは違う,普段私が老衰の恐怖と対峙しているのと 違う。
この辺はバックグランドの違いなのであろうか。それとも 私自身が,知能を否定しつつ,やはり知能にしがみついている という証明であるかのように思う。