読書メモ(2009年10月〜12月)

最近読んだ本から…メモなどを。

書籍編

アーティスト症候群〜アートと職人,クリエータと芸能人 (大野佐紀子著)(09/12/23)
現在アーティストという言葉が日本ではよく使われてます。自分のことを ○○アーティストという人もいますし,普通に音楽家や画家やデザイナーを アーティストとも呼びます。実際に芸術活動を生業にしている人 のみならず,何かのお店の単なる店員…というか贔屓目に見ても 職人でしょうけど,そういう人でもアーティストと呼ばれる場合も あるようです。美容師とかケーキ職人とかもそういう人いますね。 そして現在若い人の中に「アーティストと呼ばれたい」人が多いとのことで, この本は始まります。
というわけで,アーティストと呼ばれたい若者の話を社会学的に 書くのかな?と思ったら,結構この本でページを割いているのは 芸能人で画家とかなった人とかTVで素人アーティストとか鑑定番組の 話とかそういう話でした。
日本で音楽家とかをアーティストと呼ばれ始めたのは80年頃からだそうで, 実はそれについてはわたしもリアルタイムで印象があります。 当時のニューミュージックのミュージシャンを「アーティストと 呼ぶんだ」みたいにいっていたのを聞いたことがあります。
作者はもともと美術系の芸術家で,現在は辞めて先生とか文筆を しているようで自ら「かってわたしもアーティストだった」と 書いています。書いてますが,美大に言っていただけあって,現在 「アーティスト」が軽く使われていること,芸能人が芸術家気取りで あることについては,あまりいい様に思ってないようで,結構そういうのは 辛口に書いてました。ついでに「クリエーター」も。
というわけで,なんとなく著者のルサンチマンが見え隠れするなぁと いうのがわたしの印象です。「個性重視教育」から「オンリーワン幻想」に なりそしてアーティストになりたい症候群になっているという指摘は 確かに同意ですが,その辺の話題をもう少し掘り下げて欲しかったというのが わたしの感想でしょう。
ちなみにわたしはかって「芸術家」になりたかった人です。大学に 「芸術」が冠されているところに行ったので,そういう人や, 「芸術家が好きな人」が結構知り合いにはいました。
それから,最初に書いたような,なんか「自称アーティスト」って 今のネット的には「アーティスト(笑)」や「クリエータ(笑)」と 書くんだろうなぁと思います。まぁそういう風にアーティストとか クリエータという言葉が軽くならないように,今の業界はもう少し 言葉を厳選して使ったほうがいいんじゃない?とは少し思います。

企業戦略としてのデザイン〜アップルはいかにして顧客の 心をつかんだか〜(Robert Brunner, Stewart Emery, Russ Hall著) (09/12/05)
最近アップルがiPod & iTunesのビジネスで大きな成功をあげている からでしょうけど,アップルの成功を分析した本が結構出てます。 ジョブスを語る本も多いようですが,この本は,アップルの成功を そのデザイン主導の戦略として,アップルのみならず様々な企業の デザイン戦略とその成功と失敗を書いた本です。
この本では,その製品のデザインの一番重要なものを「 カスタマーエクスペリエンス」としてます。つまりその企業の 製品により,買ったユーザが体験するものです。ユーザが体験するものは 製品の見た目のみならず,使い心地や,シーンとか,そういうものを 通して得るものです。それがユーザにとってがっかりするものなのか?, 満足するものなのか?によりユーザが使い続けるか,または高付加価値として 高額でも使うかを決定すると書いてます。そして様々な企業をとりあげ 具体的な事例を多く書いてます。
それを読むと,デザイン主導で企業戦略を立てることは非常に重要で あるというものの,実際は多くの会社がそれを行ってきておらず, 多くの失敗をしてきているようです。またデザイン主導で行うものの, 勘違い等で失敗するケースもあるようです。デザイン主導というのは, 単に製品の見た目の設計ではなく,企業で物を作る人たち一人ひとりの 意識まで浸透しないと,うまく行かない。見た目が良くても, 故障が多かったり,ユーザがサポートがよくないだけでも,エクスペリエンスと してはがっかりしたものとなるとしています。
まぁ,そりゃー,デザイン主導と呼ぶかどうかはともかく,カスタマーが その製品を使うことで特別な意識をもてるようにするということを, 社員一人一人が意識できれば,企業は強いよなとは思いますけど, それが出来るかどうかはまぁ,それぞれでしょう:-p。
エクスペリエンスという言葉から判るように,それを与えるものを デザインとするなら,それは製品の見た目のみならず,音やさわり心地や 機能や…つまり五感に訴えてくるものであることがわかります。この本で あげているデザインの例はわりと見た目とさわり心地を主にあげてますが, たぶんここでいうデザインは わたしが思うところのデザインだと思います。
この本を読んでいて,そのつくりから「教科書的」だなと思いました。 MOTやMBAのセミナで使いそうな,企業分析と戦略についての本だから でしょう。もしかしたら本当にどこかで教科書として使っているのかも 知れません。わたしは企業戦略をデザイン主導でやっていけばもっと 面白くていい製品が出てくると思うので,この本を教科書として 扱う場が増えていけばいいと思います。ただ,やっぱり読んでいて, これを読んで勘違いする人が多いんじゃないかな?とおもいました。 この本出てくる事例も,あの大企業がこれだけ失敗するのかというのが たくさんあります。 それだけ,まだまだデザインするということを判っている企業や 経営者は少ないのでしょう。

脳のなかの水分子〜意識が創られるとき(中田力著)(09/10/01)
この本,ずいぶん前に買って,積んでました。すみません。なんか タイトルを観て,オカルト系か?と思ったりもしてましたが, ネットでそうじゃない…という話を観てあらためて読み始めて, むしろ非常に科学的な本で,それでいて,従来の常識を覆すような 話で驚きました。
この本,いろんなことを書いているのですが,一番重要なのは,脳の 意識というか脳の動きというか,そういうのの大きな鍵になっているのが, 脳というか細胞の中の水の構造とか動きではないか?という話です。 元々ノーベル賞科学者○○○がそのようなこと昔言ったのが,世間からは 忘れれていて,それを再発見した辺りからこの考えは 始まっているようです。
もっともな指摘だと思ったのが,全身麻酔となる薬品が不活性分子から できている。不活性だから体内で化学反応しない,イオン化しにくいのに なぜ?というところから,結論として水自体のクラスタの構造の変化が 関係しているのではないか?とのこと。これは,気圧が低い状況で 全身麻酔がよく効く事をよく説明できるそうです。
わたし的に非常に面白く思ったのは,体内の細胞中での非常にミクロな話, イオンがイオンチャネルを通って細胞内外とか細胞内を行き来して, それで電位差が発生して…とかいう話から,意識という非常にマクロな というかむしろ形而上的な話にもって行こうとしている点。わたしも 人体はミクロに見れば,浸透圧とか,イオンの反応とか,そういう 科学の教科書に載っているものだけしか起きてなくて,それが ずっと積みあがって最終的に意識や命や遺伝まで出来上がっていると 思ってます。でも,そのマクロとミクロのつながりがよく理解できない, ずっとそう思ってます。
著者はその辺を情報理論や複雑系の概念を使って解こうとしてます。 ただしこの本の範囲の問題なのか,それともまだ理論が完成してない からなのか,その全体をうまくつなぐ形での説明は,この本では されてませんでした。他の本に書いてるのかしら?。
というわけで問題意識としては非常に興味深く刺激的だったのですが, ちょっとこの本だけでは判断しにくいなというのが現状の感想です。あと, 意図的なんでしょうが,この本は導入で星座の話から始まっており, あとイオンとか情報理論とか話が多岐にわたって,しかも結構基本的な 話を書いているせいか,話が発散して読みにくいなという気はしました。 ちょっと,誰向きに書かれたのかな?という気はします。
もう一つ。著者は元々医者で今はMRIの権威らしいです。 だから水分子なのでしょうけど。なんかそういう工学的な業績から, 精神や形而上的なところに業績を持っていけるというスタイルは わたし的にはあこがれるところであり,何か参考になれば いいなぁと思いました。


目次へ

(C) 2009 TARO. All right reserved