読書メモ(2005年7月〜8月)

最近読んだ本から…メモなどを。

書籍編

脳は物理学をいかに創るのか(武田暁著)(05/07/18)
物理学が表現する我々の世界は,我々は確固として存在しており 間違いがないものだと思ってます。しかしわたしは物理学自体が 人間の脳が作り出したもの,つまり人間が物理学で示すやり方で 世界を捕らえてしまうため,それを表現するためにつくられたのが 物理の世界だ…と実は思ってます。つまりあるものをありのまま 表現していると思われている物理学が実は脳の表現方法に 従い世界を形式化したにすぎない…というのがわたしの考え方です。
この本のタイトルを読んだときに,同じような思想を感じました。 実際に本の頭を読み始めたときには同じような野望を感じました。 脳科学の最前線の研究成果を引用し,そして物理学の基本的な 約束ごとを吟味していく。例えばこの本に書かれていてわかるのは, 物理学の基礎といわれるニュートンのプリンキュアには時間と 空間に関する厳密な定義はなく「誰でも知っていること」 と言っているそうである。
つまり我々は時間と空間は実は厳密には定義されておらず, 思考の癖の中で暗黙の了解を得ているものである。また,物理学がが 行う「一般化」と「還元」つまり物事の中から法則を抽出しそれを 他の事象に結び付けるについても物理学の基本的な思考方法で あるといいつつ,著者はそれがどこか脳の癖というか構造に 帰するものということをほのめかしている。
実はこの本のタイトルを読んだときにそういう物理学の法則が 脳の構造から成るものだという話を期待しました。実際 そういう内容だとは思いますが,さすがにかなり過激な 話なので,その証拠を示すような内容にはならなかったようです。 実際のこの本は膨大な脳研究の資料を引用し脳の動きを細かく 解説しております。そしてわたしが期待した内容にもふれてますが, 可能性レベルでありきちんと説明するレベルまでは至ってません。 というかそれが出来れば物凄いことだと思います。
しかしこの本は,脳の構造の細かいレベルのモデル化(つまり 数式で脳神経の動作を記述している)も試みており, その辺の言葉だけで脳の話をまとめる本に比べれば,かなり 厳密に記された本だと思います。そういう意味じゃかなり 専門書ぽい感じはするんですが…,物理学者として 誠実で,見識の広いすばらしい本だと思います。


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