読書メモ(2002年9月〜11月)
2002/11/10:作成
最近読んだ本から…メモなどを。
書籍編
- ものぐさ精神分析(岸田秀著)
- 心理学者岸田秀がユリイカ等の思想書に書いた記事を
まとめたもの。
この人は「人間は本能が壊れているので,幻想が必要だ」と
いう一貫した主張がある。つまり生活習慣,性の問題,
その他いろいろあるが,すべて文化であり,その文化は
なんでもあり得る…というのが主張。そういう意味では
最近の動物行動学や進化論から人間の行動を説明しようとする
立場とは根本的に異なる。
この人の文章はおもしろい。気取ってないし,どこか壊れ気味だし(笑)。
ただしちょっとフロイトに重きをおきすぎてる気もする。
つまりちょっと性を取り上げすぎというか。
まぁ突っ込みたいところはあることはあるのだが,
結構楽しく読めるのは文章力でもあるのだなぁ…と思う。
でも,この人の本は先日出た,対談集「ものぐさ性愛論」の
方が読みやすいと思う。
- 宗教なんかこわくない!(橋本治)
- 橋本治という人はわたしは知らなかったが,写真を
見て見た覚えがあると思った。TVか何かでみたのか?…。
この本は95年頃にオウムの事件を受けて書いたものだろう。
オウムのスタイルを「日本の会社」としたのは,新鮮だったが,
基本的にこの人が宗教をあたかも不要のもの…という風に
書いていること自体には,私自身は共感出来ない。
もっとも,取り上げてあること自体には全く異論がなく,
宗教とは思想であるとか,挙げ句の果ては科学も宗教だ…という
のはわたしの主張とも完全に重なる。
とはいえ,異論があるのはおそらくわたしとは議論の出発点が
ことなり目指す方向も異なるのだろう。ということは,ベクトルは
違うが,交わってはいるわけだ。
橋本氏は,近代合理主義には宗教は時代遅れだとか,自分の頭で
考えることが必要だ…と言っている。わたしともっとも異なる
のはこの点。わたしは,そういう風にできるのは一部の人で,
多くの人は宗教を選びがちである…と思っている。自分がどうだとか
いう問題ではなく…。
この本は95年頃書かれたが,現在の状況を見ても同じような
橋本氏は同じことを書くのだろうか?…と思った。
- サブリミナル・マインド(下條信輔著)
- 心理学者下條氏の本。ちなみにこの人は「実験心理学」だと
思う。したがって,内容的には実験で確認された現象の
紹介がほとんど。
この本では,本人が意識してないことが行動に影響されているという
事例をたくさん示してくれる。例えば一瞬しか目の前に
現われない映像で,本人が何を見たか全く自覚できない場合でも,
その後の選択とかに影響が出るという例を示してくれる。
まぁ,タイトルからもわかるだろう。
そういう例をいろいろ読んで「おもしろーい」と思うのが
好きな人には楽しい本だろう。わたしもそうなので結構
楽しく読んだ…。しかし,最後の方で,ちょっとそう
楽しいばかりでもないのだな…と思った。
というのは,無意識があるという事は,長らく西洋では
認められておらず,そしてそういう思想は結局のところ法律(特に
刑法)の作成思想に関わるということになるからのようだ。
そういう風にわたしはこれらの現象をとらえていたことはなかったので,
ちょっとハッとした。
考えてみたら,なぜ犯罪を犯した人が「心神喪失」状態だと
有罪にならないのか?。ここには人間は自分が何を思い,何を行動するのかを
把握できて制御できているという前提がある。そして,
行動ではなく意思の方の責任を問っているわけだ。しかし,人間の
行動のほとんどは無意識に制御されているという事が,次々と
証拠とともに明らかになってきている。その結果,現在の法の思想では
再発を防げないようなケースも出てきているのだな…と思ったりした。
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