人は自分と他人が同じものを見たときに同じ様に見えることを 前提にコミュニケーションをしているが,実際はそういう保証は 全くない。「赤色」を見たときに「赤」と皆が思うのは,単に 「赤」という言葉が共通なだけで,感覚が同じ わけではない。
しかしほとんどの場合そういう言葉とか,いわゆるインタフェース の様なもの,つまり相手に気持ちを伝える場合に 使うものが共通なので,他人が自分と心の内部の状態が 違うことを意識しない。
私はこの感覚の違いをずっと気にしていて,どう違うか? に関心がある。あまり普通の人はこういう人との細かい感覚の違いを 突っ込み合わないようだが,私は以前からこのことが疑問だった。 もしかしたら,自分と他人とが違うということを思いたくないのか? と思ったりもするが,単に気づいてないだけかもしれない(^^;)。
というわけで,以前からこの他人と自分の感覚の違いを 実感するのが好きなわけだが,どうやってそれを実感するかを, 今日は簡単に書く。
一言でいうと「○○と××は似ているか?」という命題を いろんな人にぶつけてみるというか,そういうことを語り合うと いうことである。心理実験の中で類似性判断テストというのが ある。二つのものを見せてどれくらい似ているか?を 数値で回答してもらうというものである。「似てる」ことを 数値で判断するのは難しいが,たとえばA, B, Cと三つものがあったときに, AとBよりAとCの方が似ていると思えばAとBを1,AとCを2という風に 答える。さらにBとCも比べて,似て具合いがどうかで1とか答えると, この三つの関係が地図のように描ける。こういう感覚の地図を描いていく という実験の手法が心理学にあるのである。
こういう実験は音色とかのように漠然とした感覚のテストに 良く使われる。つまり,大きい,小さいとかのようにはっきり答えが 出るものではなく,「何となくこんな感じ」というものの実験に 向いてあるのである。
そういうわけで,似てる似てないの話は他人との感覚を比べるときに 結構わかりやすい比較法なのである。たとえばAさんとBさんが 似てると他人が言っていて,自分がそう思わない場合とか,よくあることだが, その理由を考えてみる。そうするとそういった人と自分が,人の顔を 見るときに重きをおく場所が違っていたりすることを良く発見する。 ある人は目が似てると似てるというし,ある人は輪郭,ある人は 顔の中心とか,結構人は人の顔を見るとき重きをおいている場所は 違うものである。
他にも色,形,味,模様,音楽など,いろいろあるものとあるものが 似てる似てないという話をすると,結構人と自分が違うということが 良くわかり,それがわかると自分が何を重んじて感じているか?が だんだんわかってくる。
「他人と自分が違ってることがわかることの何が嬉しいか?」と いう話もあるかも知れないが,他人との感覚の違いを意識することは, 誤解を減らす,さらに深く相手に伝えることができると 私は思っている。人は他人が自分と同じように感じると思っていて, 伝えた気になっていることが結構多い。しかしそれは非常に危うい 前提である。たまたまうまく動いているだけである。違いを意識し 丁寧に伝えることにより,より他人は深くわかり合うことができると思う。